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新しい潮流を生み続ける『リリイ・シュシュのすべて』の先駆性とは

©2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS

新しい潮流を生み続ける『リリイ・シュシュのすべて』の先駆性とは

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若い世代の『リリイ・シュシュのすべて』チルドレン



 ところが21世紀のド頭に発表された『リリイ・シュシュのすべて』は、紛れもなくそういった幸福感の裏返しである。「箱庭」の外には耐え難いほどの苛烈な現実が広がっているんだ、という、ある種のネタばらしを作者自身――岩井俊二という岩井ワールドの管理人が行ってしまった禁断の一本。


 これは突然変異というわけではあるまい。岩井俊二には頽廃を剥き出しにしつつ、それを独自の美学でコーティングした『Undo』(1994年)や『PiCNiC』(1996年)といったダークサイド(筆者はもともとこちらが好みだった)の系譜もあり、裏返しの世界も「箱庭」として差し出していたのだ。だが『リリイ・シュシュのすべて』においては、そこからひりひりする現実へと踏み出し、これまで(良くも悪くも)自閉的だった視座を「社会派」へと果敢に拡大させた。それが稀代の大怪作にして大傑作、他を圧倒する異色作にして金字塔を生む結果になったのだろう。


それゆえ従来の岩井俊二ファンの多くが戸惑いを隠せない一方、「自分(たち)の物語」として『リリイ・シュシュのすべて』の衝撃に思春期でぶち当たった世代――いま20代から30歳付近の作り手たちが、同作の影響をそれぞれ消化・昇華する形で、先行世代の文脈とは異なった新しいクリエイションの流れを生んでいる。



『リリイ・シュシュのすべて』©2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS


 例えばMOOSIC LAB 2013のグランプリ受賞を経て劇場公開となった『おとぎ話みたい』(2013年)や、ジョージ朝倉原作で興収7億円超えのスマッシュヒットになった『溺れるナイフ』(2016年)の山戸結希(1989年生まれ)。彼女は中学生の時にWOWOWでたまたま観た『リリイ・シュシュのすべて』が、映画表現の凄さに触れた最初の決定的な体験だったという。松居大悟(1985年生まれ)はクリープハイプの楽曲とのコラボという形を取った映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(2013年)で、田園風景の中にポータブルCDプレイヤーを持って佇む少年というオマージュ的な画を登場させた。そして最も熱烈に同作のフリークを公言しているのが、MOOSIC LAB 2017の観客賞受賞作『少女邂逅』が今年(2018年)劇場公開された枝優花(1994年生まれ)。彼女もまた中学生の頃に本作を観て、登場人物全員が自分のようだと思い、映画監督への道を初めてイメージするようになったらしい。『少女邂逅』で音楽を務めた元「転校生」名義のシンガーソングライター、水本夏絵ともやはり同作からの強い影響でつながっている。彼らは皆、『リリイ・シュシュのすべて』チルドレンなのだ。



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