『ポンヌフの恋人』あらすじ
フランス革命200年祭でにぎわうパリ。セーヌ川にかかるポンヌフ橋をねぐらにする孤独な大道芸人アレックスと、眼病で失明の危機にある画学生ミシェルとの鮮烈な恋を描いた美しく痛ましい愛の物語。
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二十代の結晶
炎の閃光は言葉よりも饒舌だ。アレックス(ドニ・ラヴァン)が口から吹く炎のスピードとリズム、赤い色彩は、すべてに先行する。はじめに言葉ありき、否、はじめにイメージありき、否、はじめに感情ありきだ。『ポンヌフの恋人』(91)は、感覚の集中地帯のような映画だ。ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)は、炎の閃光という未知の激しさに心を奪われる。このとき炎は、アレックスの放つ新しい“言語”となる。しかしアレックスの炎は、失明の危機にあるミシェルの瞳を傷つけていく。望外の喜びと取り返しのつかない傷が、アレックスが吹く炎のスピード、研ぎ澄まされたアクロバット、編集のリズムと共に刻まれていく。炎の光がミシェルを照らす。光の強さがミシェルの心と瞳を奪う。すべては発光点へと向かっていく。ここにはスピードとスピードがぶつかり合うような“衝突”の感覚がある。
本作のテーマを象徴するこのシーンは、アレックスが街中に貼られたミシェルのポスターを燃やす展開の伏線となる。そして真っ二つに引き裂かれていくような感覚は、ゾルタン・コダーイの無伴奏チェロソナタの弓の動きに似ている。レオス・カラックスは、『ボーイ・ミーツ・ガール』(84)から続く「アレックス3部作」の冒険を終わらせようとしていた。本作はフルスピードで駆け抜けた二十代の総決算であり、結晶である。レオス・カラックス、ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュは、撮影当時全員二十代だった。この映画はスピードの冒険の終わり、若さの終わりに向かって突き進んでいく。この偉業をハーモニー・コリンは「魂の解放」と呼んだ。

『ポンヌフの恋人』4Kレストア版 © 1991 STUDIOCANAL - France 2 Cinéma
ドニ・ラヴァンの手の怪我から始まる災難。2回の中断を挿む、3年に渡る撮影。ポンヌフ橋をセットで再現するという途方もないスケール。悪天候で倒壊するセット。資金難に次ぐ資金難。ジュリエット・ビノシュというフランスの国民的俳優が、一本の作品に3年の歳月を捧げたという事実(本作の撮影に専念するために、ジュリエット・ビノシュはエリア・カザンとの仕事を断っている)。レオス・カラックス、ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュがこの映画について語る際、3人の言葉はいつも同じだ。「人生を生きた」。これ以上のことはないのだと。人生を賭けるだけの価値はあった。若きレオス・カラックスは、「映画は手遅れになる前に作られなければならない」と述べている。この作品は若さのスピードに間に合ったのである。『ポンヌフの恋人』は、今日においても若さの結晶、恐るべき魂の結晶であり続けている。