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『ポンヌフの恋人』二十代の結晶、光の衝突、人生の向こう側へ!

© 1991 STUDIOCANAL - France 2 Cinéma

『ポンヌフの恋人』二十代の結晶、光の衝突、人生の向こう側へ!

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ジュリエット・ビノシュの解放



 「彼女(ジュリエット・ビノシュ)は、感情の根源を追い求め、それを引き抜き、カメラに投げつける。それは爆発的だ」(レオス・カラックス)*1


 『ポンヌフの恋人』は、前作『汚れた血』(86)への反動から生まれている。それはジュリエット・ビノシュの演技の“解放”と深くつながっている。路上生活者のミシェルは、彫刻のように美しく撮られていた『汚れた血』のアンナとは完全に対照的だ。『汚れた血』の後、レオス・カラックスはジュリエット・ビノシュの意見に耳を傾けている。「もう聖母マリアのように撮られたくない」。「カメラングルや頬にあてる光によって表現される美しさ以外にも、私の中には別の美しさがある」と。


 レオス・カラックス責任編集によるカイエ・デュ・シネマの「ポンヌフの恋人特集号」には、リリアン・ギッシュと同じポーズをとる眼帯のジュリエット・ビノシュのスチールが掲載されている。良家の子女で、最愛の恋人に捨てられ、失明の危機にある路上生活者の画家ミシェル。ジュリエット・ビノシュは俳優になる以前に絵を描いていた。当時パートナーだったレオス・カラックスは、彼女に再び絵を描いてもらいたかった。ジュリエット・ビノシュは木炭画や油絵を再開する。猛烈な勢いで絵を描きはじめる。2人の住む家は、あっという間に画用紙とスケッチブックでいっぱいになったという。ジュリエット・ビノシュの潜在能力の解放は、レオス・カラックスが『ポンヌフの恋人』という作品に課した最大のテーマだった。



『ポンヌフの恋人』4Kレストア版 © 1991 STUDIOCANAL - France 2 Cinéma


 レオス・カラックス自身もまた、すべてのショットが徹底的に構築された『汚れた血』からできるだけ遠くに離れようとしていた。被写体を縛るカメラからほどくカメラへ。俳優の肌にもっと近づくために。あるいは肌を“発見”するために。新作の度に自分の限界を超えるのは、レオス・カラックスが自身に課している原則である。それは本作の冒頭を飾るナンテールのシーンに、“宣言”のように描かれている。ドキュメンタリーのように撮られた路上生活者の救護施設。カメラは路上生活者の肌に向かっていく。ドニ・ラヴァン以外の被写体は、すべて本物の路上生活者である。路上生活者の女性が平手打ちされるシーンは、実際にその場で起きたことだという(撮影のジャン=イヴ・エスコフィエが老女に小便をかけられたというエピソードが残っている)。『汚れた血』の構築されたスタイルと真逆の、衝撃的ともいえる生々しい映像スタイル。このスタイルはハーモニー・コリンの長編デビュー作『ガンモ』(97)のスタイルを形作る最大のインスピレーションになったと思われる。ハーモニー・コリンには『ガンモ』を撮る際に譲れない条件があった。それはレオス・カラックスの永遠の盟友であり、「アレックス3部作」の撮影監督であるジャン=イヴ・エスコフィエと組むことだった。


 『ポンヌフの恋人』は、路上生活者にロマンやアナーキズムを纏わせていない。レオス・カラックスは17歳でパリに出てきた際、路上生活者の近くにいた。路上生活者たちに言葉では言い表せない怒りと恐怖、同情とはまったく異なる強い感情を感じていたという。レオス・カラックスは、本作の撮影前に路上生活者救護施設のパトリック・アンリ医師と連絡を取り合っている。医師への取材中に救護施設の悲惨な状況を目の当たりにする。足のしびれを訴える路上生活者の靴を医師が引っ張ると、一緒に足が取れてしまったという。


 コンクリートに額を擦りつけるアレックス。アレックスとミシェルが初めてすれ違うパリの夜のセバストポール通りの描写には、レオス・カラックス的な“衝突”のテーマが描かれている。車に足を轢かれるアレックス(後ろ姿しか確認できないが、車に乗っているのは後に『ホーリー・モーターズ』(12)に出演することになるエディット・スコブと彼女のパートナーである)。画板を抱え近くを通りかかったミシェルは、視線ではなく聴覚、衝突音によってアレックスの事故を知覚する。事故の後、ミシェルは路上に横たわるアレックスの絵を想像で描いている。興味深いのは、ミシェルがアレックスを死体だと認識していたことだ。ミシェルの中でアレックスは一度路上で死んでいるのだ。死んだはずのアレックスが、ポンヌフ橋で再び現れる。





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