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『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』ウェス・アンダーソンがたどり着いた静かな祈り、天国を共に歩くために

Courtesy of TPS Productions / Focus Features © 2025 All Rights Reserved.

『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』ウェス・アンダーソンがたどり着いた静かな祈り、天国を共に歩くために

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『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』あらすじ

舞台は1950年代、“現代の大独立国フェニキア”。6度の暗殺未遂から生き延びた大富豪ザ・ザ・コルダは、フェニキア全域に及ぶ陸海三つのインフラを整備する大規模プロジェクト「フェニキア計画」の実現を目指していた。そんな中、とある妨害によって赤字が拡大、財政難に陥り、計画が脅かされることに。ザ・ザは離れて暮らす修道女見習いの一人娘リーズルを後継者に指名し、彼女を連れて旅に出る。目的は資金調達と計画推進、そしてリーズルの母の死の真相を追うこと。果たして、プロジェクトは成功するのか?リーズルの母を殺したのは誰か?そして、父と娘は「本当の家族」になれるのか──?


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魂の保管と消滅



 ウェス・アンダーソン監督の12本目の長編『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』(25)は、“家族”に焦点を当てた初期の作品への回帰といえる。『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(21)や『アステロイド・シティ』(23)の複雑な構造から離れ、物語はいつになく直線的に進んでいく。また、これまですべての実写長編作品のカメラマンを務めてきたロバート・D・イェーマンの不参加の影響なのか、ほとんどアヴァンギャルドの領域に足を踏み入れていた美学的・技術的・装飾的な側面は、前2作に比べかなり抑えられている。瑞々しさすら感じられるプリミティブな画面作りへ。それは主人公ザ・ザ・コルダ(ベニチオ・デル・トロ)の乗る飛行機が攻撃を受け、部下と思われる人物の上半身が爆風に吹き飛ばされる荒々しいファーストシーンから、“宣言”のように実行される。しかし、“現代映画のマエストロ”ウェス・アンダーソンの新作である。単なる原点回帰で終わるはずはない。この映画には実生活で一人娘の父親であるウェス・アンダーソンのパーソナルな問題意識が、画面の至るところに強く滲んでいる。騒々しさの果てに生まれる静かな祈り。破局の果てに芽生える、ささやかな生活の灯。果たして私たち大人は子供たちに何を残してあげることができるのか。ウェス・アンダーソンは自分の死後の世界に思いを馳せている。



『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』© 2025 TPS Productions, LLC. All Rights Reserved.


 ウェス・アンダーソンの新作に駆け付けるということは、それ自体がお祭りのようなイベントに参加することに等しい。観客はウェス・アンダーソンの“計画”に参加する。では本作のタイトルにも組み込まれている“計画”とは何なのか?長編デビュー作『アンソニーのハッピーモーテル』(96)以降、ウェス・アンダーソンの映画にとって“計画”とは、言葉の意味を無効にする行き当たりばったりの旅のことである。コントロール・フリークのつもりで生きている登場人物が、コントロール不全の状態になることを意味している。そもそもウェス・アンダーソンの映画自体が、美術品を精巧に作り上げ、そこにひび割れていく様を美しく描いているといえる。ある意味、まったくもって“不経済”な作品群といえる。しかしこれは同時に、合理性ばかりが優先される世界への、遊び心に溢れた痛快な挑発である。本作の主人公ザ・ザの行動のように!そしてウェス・アンダーソンは、“栄光は色褪せる(だからこそ尊い)”というテーマに、キャリアを通してこだわり続けている。


 世界の平和と争いを同時に引き起こす大富豪ザ・ザは、まさしくコントロール・フリークである。6度目の暗殺未遂で生死の境をさまよったザ・ザは、人生でやり残したことに着手する。ザ・ザの“計画”には、離ればなれの生活を送っている娘のリーズル(ミア・スレアプレトン)を自身の跡継ぎにすることが含まれている。つまりザ・ザにとって“計画”とは、何よりも娘のことであり、自分のいなくなった世界のことであり、それは魂の保管と消滅に関わることである。しかしここで重要になるのは、娘が父の意向に“同意”するとは限らないということだ。リーズルは父親のことを信用していない!





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