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『二つの季節しかない村』ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督 風景が心情を象徴する【Director’s Interview Vol.443】

©NuriBilgeCeylan

『二つの季節しかない村』ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督 風景が心情を象徴する【Director’s Interview Vol.443】

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人間はみんな小さな子どものよう



Q:本作は人間関係にも社会に対しても悲観的なヴィジョンがあると思いますが、それはどこからくるのでしょうか。


ジェイラン:自分がそういう人間だからです。そのように生まれたから、ただ自然に自分はこうだと認識したとしか言いようがありません。わたしにとって人生はつねに困難なものです。だからこそ、芸術で人生に何か意味をもたらしたいと思うのです。実際自分が創造したいと思うのはフィーリングです。一種のセラピーとでも言えるでしょうか。うまく言えませんが、何か自分で抱き続けられるようなものを創造したいと思うのです。


Q:子供のときから映画をよくご覧になる環境にいたのでしょうか。


ジェイラン:はい、実際子供のときは家にテレビがなかったので、映画を観に行くしかありませんでした。自分がいた小さな町には映画館があって、毎日プログラムが変わっていました。


Q:どんな映画をご覧になっていたのですか。


ジェイラン:ほとんどが、ハリウッド映画を真似したようなトルコ映画でした(笑)。でも子どもには大きなインパクトがありました。映画を観ると、3日間ぐらいヒーローになりたいと思い続けたものです(笑)。



『二つの季節しかない村』© 2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND / FILM I VÄST / ARTE FRANCE CINÉMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME


Q:自分のアイデアを表現するのに、なぜ映画がもっとも適していると思われたのでしょうか。


ジェイラン:もし自分に十分な自信があれば、文学を目指していたと思います。文学の方が自分の心に大きな影響を与えたからです。たとえばドフトエフスキーやチェーホフほど自分の心に影響を与える映画はありません。でも自分は作家としての才能があるとは思えなかった。自分の能力はむしろ映画に向いているのではないかと思えたのです。本当は文学のようにひとりでクリエイトする方がいい。かたや映画は何人ものスタッフと一緒に作らなければならない。初期はそれが自分にとって大きな障害でした。多くのスタッフやプロデューサーとやっていかなければならないことが苦痛でした。でも今はもう慣れたので、気にならなくなりました(笑)。


Q:映画があなたに、人々とうまくやっていく方法を教えてくれたのかもしれませんね。


ジェイラン:たぶん。最初は5人ぐらいの少人数だったのですが、それでも、もし1人とあまりうまくいかなかったら、わたしの頭はすべてそこに囚われてしまった。でも今は自分の仕事に集中することを覚えました。それが人生というものなのかもしれません。


Q:あなたの映画にはユーモアもあります。たとえば主人公はあまりに独りよがりゆえに、どこか笑ってしまうというような。


ジェイラン:それこそ自分が人々のなかに見ているものです。わたしたちはみんな小さな子供のようです。傲慢で、意固地で、どこか可笑しい。そういう部分に自分は惹かれる。逆に神のように完璧に振る舞う人を信じたことがありません。もっとも、それはそれでどこかファニーでもありますが。この悲観的な世界では、すべてがファニーでもあるのです。



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監督/共同脚本/編集:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

1959年1月26日、イスタンブール生まれ。76年にイスタンブール工科大に入学し、化学工学を専攻するが、当時、大学は政治的、社会的動乱の中にあり、講義は常にボイコットや政治的対立などによって妨害され、休講となったため学業はままならなかった。78年に改めてボアズィチ大学に入学し、電気工学を専攻、写真部に入部するとともに、図書館で視覚芸術とクラシック音楽の嗜好を養う。兵役後、ミマール・シナン美術大学で映画を学びつつ、プロカメラマンとして生計を立てる。93年、最初の短編「繭」の撮影を開始。この作品は95年の第48回カンヌ国際映画祭に選出された初めてのトルコの短編映画となった。「カサバー町」(97)で長編デビュー。第48回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品され、カリガリ賞を受賞。「五月の雲」(99)は、第50回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、「カサバ‐町」からの「地方3部作」の最終章、「冬の街」(03)で、第56回カンヌ国際映画祭グランプリと最優秀男優賞を受賞し、国際的な知名度を上げる。同作はカンヌ以後も国際映画祭を巡回し、47もの賞を受賞、トルコ映画史上最も高い評価を得た作品となった。「うつろいの季節」(06)は、第59回カンヌ国際映画祭でFIPRESCI国際批評家連盟賞受賞。「スリー・モンキーズ」(08)では、第61回カンヌ国際映画祭監督賞を、「昔々、アナトリアで」(11)では、2度目のカンヌ国際映画祭グランプリを受賞。そして、7本目の長編『雪の轍』(15)で、第67回カンヌ国際映画祭パルムドール大賞と国際批評家連盟賞を受賞。続く『読まれなかった小説』(18)も第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、第51回トルコ映画批評家協会賞で6冠に輝いた。本作『二つの季節しかない村』は第76回カンヌ国際映画祭でトルコ人初の最優秀女優賞をヌライを演じたメルヴェ・ディズダルにもたらした他、第56回トルコ映画批評家協会賞では9冠を獲得している。



取材・文:佐藤久理子 

パリ在住、ジャーナリスト、批評家。国際映画祭のリポート、映画人のインタビューをメディアに執筆。著書に『映画で歩くパリ』。フランス映画祭の作品選定アドバイザーを務める。




『二つの季節しかない村』

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて、絶賛上映中!

配給:ビターズ・エンド

© 2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND / FILM I VÄST / ARTE FRANCE CINÉMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME

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