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『YADANG/ヤダン』、カン・ハヌルの躍動感【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.95】

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『YADANG/ヤダン』、カン・ハヌルの躍動感【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.95】

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 主演のカン・ハヌルがむちゃくちゃいいです。スピード感抜群の演出で、結末もバッチリ決まり、席を立つとき、「あー、面白かった」となるんですけど、じゃ、「何が印象に残った?」と訊かれたら、カン・ハヌルの躍動感なんですよ。彼が演じるイ・ガンスって悪党なんですけどね。一種のピカレスクロマンっていうか、観客はその悪党に感情移入する作りになっている。だから、つまり映画そのものがカン・ハヌルの魅力を引き出し、気持ちよく大暴れさせるために設計されている。この人は調子に乗ったときがすごくいい。追いつめられて焦るときもいい。動きにキレがあって、演出のテンポ感に合っている。


 カン・ハヌル演じるガンスは韓国の裏社会で「ヤダン」と呼ばれる存在です。これは一種の情報屋ですね。独自の人脈によって麻薬売買など犯罪情報を入手し、司法取引を引き出す。韓国語で「ヤダン」というと、普通は政治用語の「野党」のことです。「政権を担当していない=野党」が転じて、犯罪に主体的に関与はしないけれど、周辺にうごめき、情報に精通している闇のブローカーということで「ヤダン」なのでしょうか。悪党なんだけど「悪」そのものではない、ちょっと蔑称のような響きがありますね。口八丁手八丁、うまく立ち回って「悪」の上前をハネる小ずるい存在。


 ガンスは検事ク・グァニによって見出された「ヤダン」です。最初は麻薬取締法で捕まったチンピラでした。刑務所内でテストされ、抜群の記憶力と調子のよさでスカウトされた。検事ク・グアニは出世コースから外れ、くすぶっていた野心家ですね。ガンスという「ヤダン」を手に入れ、検挙実績をつくりにかかる。そりゃ検察と「ヤダン」がグルなんですから、自由自在に犯罪が摘発されます。でっち上げでも八百長でもいい。僕は白石和彌監督の『日本で一番悪い奴ら』(16)に出てきた北海道警察を連想しました。


 検事ク・グァニはガンガン出世していきます。それにともなって「ヤダン」のガンスも羽振りが良くなっていく。何しろガンスは検察とツーカーですから、犯罪組織の大物にとってもメリットがある。司法取引を引っ張りだしたり、敵対勢力をつぶすなど利用価値があるんです。僕はこの羽振りが良くなって、絶好調のカン・ハヌルが好きでしたねー。俳優さんとしての「フラ」っていうのかな、図に乗ってるのが絵になるって大事なことですよ。見ている側としては完全にカン・ハヌルのペースに引き込まれる。



『YADANG/ヤダン』ⓒ 2025 PLUS M ENTERTAINMENT AND HIVE MEDIA CORP, ALL RIGHTS RESERVED.


 映画全体の構図としては正邪・善悪が反転を続ける面白さがあります。「ヤダン」のガンスは犯罪組織との繋がりで食ってる悪党ではあるんだけど、その実、検察ともつるんでる「正義」の側(?)とも言える。検事ク・グァニは職分としてはもちろん「正義」の側だけど、自身の栄達のために職権を乱用する「悪」でもある。誰が正しく誰が悪か、誰が敵で誰が味方かは簡単には言えない。それは物語の進行のなかでスリリングに変化していく。


 そこにあるのは「うまくやる奴」と「どんくさい愚かな奴」という区別だけです。韓国ノワールの世界観ですね。ファン・ビョングク監督は麻薬犯罪の実態を取材し、リアルな場面設定やロケーションを探る一方、俳優には早口のセリフ回しを要求したそうです。それはスピード感、テンポ感の追及でもあるけれど、僕には「うまくやる奴」NO.1決定戦を見せてくれてるようにも思える。


 だから、ものすごくシンプルに言うと、これは「うまくやる奴」が生き残る映画ですね。エンタメ作品であり、特段メッセージを発してるわけではないんですが、もし、そのようなものを読み取ろうとするなら、後ろ盾のないチンピラ、弱き者は根性決めてうまくやれ、生き延びろ、でしょうか。我が深作欣二監督の作品に通底していたガッツとも通じますね。


 あとこれは蛇足なんですけど、お笑いの「や団」が「ヤダン」にどう反応してるか知りたいじゃないですか。まぁ、僕がプロモーターならSMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)に連絡して、試写会に来てもらいますけど、やっぱり動きが早くて、去年11月に、や団・中嶋亨さんが「ヤダン!!!!!や団3人で観に行きたい!!!!」とSNSに投稿していますね。ああ、伝わってたんだと安心しました。そりゃキング・オブ・コントの常連に応援してもらいたいです。新春公開、ぜひヒットしてほしい。



文:えのきどいちろう

1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido




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『YADANG/ヤダン』

新宿バルト9ほか全国公開中

配給:ショウゲート

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