©ロッコク・キッチン・プロジェクト
『ロッコク・キッチン』、人の暮らしはなくならない【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.98】
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映画『ロッコク・キッチン』(25)、面白かった~。すごく切実で、あたたかいものに触れてる映画だと思います。福島県の浜通りを南北に貫く国道6号線(つまり、「ロッコク」です)を舞台にしたロードムービー感覚のドキュメンタリーです。「ロッコク」は東日本大震災&原発事故の影響が甚大だった市や町を縫うように走っている。
映画の2人の監督、川内有緒さんと三好大輔さんはプランを立てる。まずネットで「ロッコク」沿線住民の皆さんに「食をめぐるエッセー」を募集したそうなんですね。震災から13年経っていた。その時間の経過にまず感じ入ります。もちろん「ロッコク」沿いには帰宅困難区域がある。だけど、人の営みは色んな風です。いったん避難して帰還した人、移住者、復興の仕事で住みついた人、色んな人が住んでいる。だんだん「食をめぐるエッセー」が集まってきて、川内さん三好さんらスタッフは「ロッコク」へクルマを走らせる。複数のドキュメンタリー・ワークを企図しました。集まったものをエッセー集にすること。エッセーの書き手を訪ねて、手料理を食べ、作家・川内有緒が書きおろしの作品にすること。写真を撮ること。それらすべてを映画に撮ること。
書きおろしの方は『群像』に6回にわたって「ロッコク・キッチン 浜通りでメシを食う」として掲載され、更に大幅な加筆修正の後、書籍『ロッコク・キッチン』(講談社)として上梓されています。川内さんはこの作品で第35回ドゥマゴ文学賞に輝いた。何と選者の最相葉月さんは『群像』掲載の時点で(本がまだない時点で)この作品を選んだそうです。選評で「文芸誌で連載が始まったとき、福島第一原発事故後を描くのにこんな方法があるのかと驚き、最終回まで見届けなければと思った。ただ隔月連載なので期限までに終わらないかもしれない」と当時を振り返っている。だから正確には受賞作は『群像』誌の連載「ロッコク・キッチン 浜通りでメシを食う」なんですね。僕はこのアクチュアルさが作品の魅力だと思います。「今、そこにその人がいて、こんなごはんを食べて暮らしてる」がどんどん提示される感じ。

『ロッコク・キッチン』©ロッコク・キッチン・プロジェクト
映画は距離感がいいんですよね。川内さんがインタビューイにすーっと寄っていく。懐っこいんだけど、冷静でもある。予断や先入観を排し、熱っぽくも冷たくもない。フツーに入っていく。三好さんのカメラもあくまで淡々としている。取材しているのはまるごと「東日本大震災後」「原発事故後」の現実なわけです。それはややもすると悲しみや怒りのトーンで描かれがちです。糾弾調の政治的なナラティブもおさまりがいい。だけど、川内さん三好さんはそんなことハナから考えていない。人の暮らしが見たいんです。荒れた大地からつやつや美しい草が芽吹くように、人の暮らしはなくならない。その愛しいひとつひとつに懐っこく寄っていく。
震災からもうすぐ15年です。『ロッコク・キッチン』の上映期間に15年めの3・11がやってくるでしょう。僕はよくあのときのことを考えます。原発建屋がふっ飛んだとき、ああ、ホントにこの世が終わるんだと思った。あのときの恐怖、焦燥感、無力感は忘れられない。変な話ですけど、あれからどこをどう伝(つた)って生きてきたのか覚えてないんですよ。いや、仕事もしたし、コロナにも耐えたし、新しい仲間とも出会ったんですよ。それはわかるけど、あの日の絶望からどう逃げてきたのかは判然としない。きっと生きてくしかなかったんですよね。大切な誰かと何か食べて、生きてくしかなかったんですよ。
だから映画『ロッコク・キッチン』の国道6号線は見えないルート(?)で僕の家にもつながっているんだと思います。僕の家も「ロッコク」沿いにある。あの日、絶望したみんなの家につながっている。まだこれからも大変ですよ。まだこれからがあります。だけど、捨てたもんじゃない。前を向いて、のんびり行きましょう。寂しくなったら映画のなかの川内有緒さんのように懐っこく誰かとおしゃべりして、おいしいものを食べましょう。
その「捨てたもんじゃない」って気持ちをシェアするためにこの映画は作られたと思うなぁ。力のある作品です。大きな映画館じゃないかもしれないけど、きっとずーっと上映が続いて、たくさんの人に届くことでしょう。
文:えのきどいちろう
1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido
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ポレポレ東中野にて公開中
3月6日よりシモキタ - エキマエ - シネマ「K2」ほか全国の劇場で順次公開
配給:ロッコク・キッチン・プロジェクト事務局
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