©2026映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』製作委員会
『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』、どこかで繋がっている【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.100】
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まいった。最高にエモーショナルな映画です。これは1978年、たった1年の間に起きた「東京ロッカーズ」というパンク・ロックムーブメントについての映画なんです。いくつかのバンド、何人かの若者が出てくるけど、主役はムーブメントですね。大袈裟に言えば「革命の記録」。といって何か教条的なめんどくさいもんじゃなく、誰かの胸のなかにある衝動が別の誰かの衝動と出会って、それがまた更に別の誰かの衝動をひっぱり出し、連鎖的に爆発していくという、こう、うっかり生まれた空気みたいなものを映画にしているんですよ。その空気が確かに映画全体に横溢している。そこがすごいと思うんだよなぁ。あの時代を知ってて、映画の登場人物、例えば「解剖室」のボーカル、未知ヲはザ・スターリンの遠藤ミチロウだと知ってる層はもちろん、今、10代とかハタチぐらいで何もできなくて胸に衝動だけため込んでる層にもまっすぐ伝わる。
テレグラフ・レコードの地引雄一さんって人がいて、この人が『ストリート・キングダム』の原作を書いたんですよ。テレグラフ・レコードっていうのは今の言い方でいう「インディーズレーベル」で、まだ既成の大手レコード会社しかない時代に勝手にやってたとこなんです。地引さんは本作のなかでは銀杏BOYZ、峯田和伸演じる「響ユーイチ」として登場します。セックス・ピストルズにしびれて、ふらふらしてたら「東京ロッカーズ」のムーブメントに出くわして、写真撮ったりチラシ作ったりしてるうち、もう止まらなくなって一緒に駆け出してしまってた人なんですよね。だから峯田和伸さんの「ユーイチ」は非常に重要な役です。新しい人と出会い、新しい音に触れ、いちいち驚き、興奮し、感化されなきゃいけない。狂言回しです。「ユーイチ」の興奮を映画の観客はトレースする。「ユーイチ」が正直でいっしょうけんめいだから作品が成立するんです。
だって1978年のムーブメントの映画ですよ。ちょっとでも上から目線になって、「あのとき、オレら最高だった」「今はまがいものしかない」なんてなったら値打ちゼロです。単なるノスタルジー。ロックオヤジの回顧録。そういうんじゃなくて、あのときの切実さが伝わんなきゃいけない。どこに向かって走ってるか誰ひとりわからないまま走ってるんです。走ってるうちに見えたものやつかまえたもの、そして失ったものがある。あるいはそのときはわからないけど、あとになって嫌というほどわかるものがある。まぁ、それは陳腐な言い方をすれば「青春」なんだろうけど、映画でそれを見せるならキラキラ輝いてないとダメですね。『ストリート・キングダム』はそれに成功しています。

『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』©2026映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』製作委員会
僕は小滝橋通りにあった新宿ロフトも渋谷の屋根裏も知ってるけど、「東京ロッカーズ」の現場には立ち会っていないんです。いないんですけど、同時代同世代の人間として、この空気は忘れがたい。パンク、ニューウエーブ、小劇場、ミニコミの70年代末は今より世界が小さかったんです。どの方向へ行っても誰かと出くわした。『ストリート・キングダム』に登場する人も、別の世界で何かやってた人も何か知り合いのような、知り合いじゃないけどどこかで繋がってるような、不思議な感じがあったなぁと思います。というのも「東京ロッカーズあんまり関係なかった」と思ってる自分が、映画に出て来る主要な何人かを直接知ってるんですよ。これは見て驚きました。
田口トモロヲ監督はインディーズ、オールスタディング、ロックフェスといった今ではごく当たり前になった諸々があの時代、あの空気のなかで始まったことを伝えようと考えたそうです。それは「今」との接続点ということなんだと思います。50年近く昔の音楽シーン。そこにあった興奮。たった1年の間に起きた奇跡。それはもう消え去って、何も残っていないのか。『ストリート・キングダム』はそうじゃないんだって全力で言ってますね。どこかで繋がっている。
誰かの胸のなかにある衝動が別の誰かの衝動と出会って、映画を見ている誰かの衝動をひっぱり出す。映画のとびきり美しいシーン、峯田和伸の「ユーイチ」と吉岡里帆の「サチ」がうれしくてうれしくて街を疾走する場面を見て、駆け出したくならない人はいないんじゃないかな。映画がそんな伝わり方をしたらいいですね。あのたった1年が永遠だといいですね。
文:えのきどいちろう
1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido
『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』
3月27日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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