『花様年華』あらすじ
1962年の香港。新聞記者のチャウ(トニー・レオン)夫妻と、社長秘書をしているチャン夫人(マギー・チャン)とその夫は、それぞれ部屋を間借りする形で、たまたま同じ日にアパートの隣同士となった。隣人として、あるいは熱気あふれる集合住宅を共有する仲間として、出会ったチャウとチャン夫人だったが、やがて互いのパートナー同士が不倫していることを知る。ともに裏切られた者同士、二人はたちまち親しくなり、同じように逢瀬を重ねていく。小説家を志望しているチャウは、チャン夫人に執筆の手伝いを頼み、やがて二人はホテルで密会を始めるのだった。
映画監督、ウォン・カーウァイ(王家衛)は時間の魔術を操る。自らのルーツに通じる1960年代を舞台とした『欲望の翼』(90)『花様年華』(00)『2046』(04)は、その手つきがとりわけ鮮やかな作品群だ。
1962年の香港。新聞記者のチャウ(トニー・レオン)夫妻と、社長秘書をしているチャン夫人(マギー・チャン)とその夫は、それぞれ部屋を間借りする形で、たまたま同じ日にアパートの隣同士となった。隣人として、あるいは熱気あふれる集合住宅を共有する仲間として、出会ったチャウとチャン夫人だったが、やがて互いのパートナー同士が不倫していることを知る。ともに裏切られた者同士、二人はたちまち親しくなり、同じように逢瀬を重ねていく。小説家を志望しているチャウは、チャン夫人に執筆の手伝いを頼み、やがて二人はホテルで密会を始めるのだった。
『花様年華』予告
Index
ウォン・カーウァイの10年間と15ヶ月
『花様年華』という作品には、少しばかり複雑な経緯がある。マギー・チャンが扮するチャン夫人の名前はスー・リーチェン。これはカーウァイによる“60年代3部作”の前作、『欲望の翼』でマギー自身が演じた役柄と同じ名前だ。『欲望の翼』の舞台である1960年、レスリー・チャン演じるヨディに恋をしていた売り子の女性が、その2年後には艶やかなチャイナドレスをまとい、今度は既婚者同士の恋愛に身をゆだねたわけである。
カーウァイは本作について「『欲望の翼』の続編のようだが、続編ではない」と言っている。しかし、事実として『欲望の翼』と『花様年華』の物語に直接的な繋がりはないものの、スー・リーチェンの再登場のほか、『欲望の翼』のラストシーンに姿を見せたトニー・レオンが今回は主演を務めていることも、両作の関係性を際立たせる。もともと『欲望の翼』は前後編の2部構成となる予定で、本来の構想ではトニーが後編の主役を演じるはずだったのだ。しかし、事情により後編はとうとう製作されなかった。
『欲望の翼』予告
脚本の内容をあらかじめ固めず、撮影過程で撮り直しを重ねながら物語を作り上げていくスタイルを取るカーウァイは、『花様年華』について「キャリアで最も難しい撮影だった」と振り返っている。成熟した大人のラブストーリーを撮りたかったそうだが、作品の内容はトニーとマギーの出演を受けて決まったというし、カーウァイも自作について「どんな展開になるかは自分にもわからない」と告白している。撮影には15ヶ月もの期間を要し、当初は、ホテルのシーンのロケ地となった九龍の旧陸軍病院で多くのシーンを撮る計画だった。実際に病院での撮影は何度も行われたが、多くの映像は本編に使用されていない。
本作は1962年から1966年までの物語に仕上がったが、当初、カーウァイは1972年のシーンで映画を終える構想だったことも認めている。撮影中、いかに物語が紆余曲折を経たかがうかがえるだろう。
“60年代3部作”の第1作である『欲望の翼』から10年間。『花様年華』の撮影期間が約15ヶ月。ウォン・カーウァイはこの作品を完成させるべく、自らもどこに向かうかわからない、いわば〈宙吊り〉の時間をさまよった。そして、許されない恋に落ちたチャウとチャン夫人も、カーウァイと同じく、いつまで続くかわからない〈宙吊り〉の時間を過ごすことになっている。