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『ブエノスアイレス』撮りながら方向性が変わっていく、ウォン・カーウァイのひとつの境地

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『ブエノスアイレス』撮りながら方向性が変わっていく、ウォン・カーウァイのひとつの境地

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最盛期の作品群は、時代を超えて輝きを放つ



 ウォン・カーウァイといえば、映画ファンの間では、ある種のレジェンドとして永遠に愛されているが、そのキャリアを振り返ると「最盛期」が存在し、酷な言い方をすれば、最盛期の後の作品には明らかに輝きが失われた監督でもある。その最盛期とは、1990年の『欲望の翼』から2000年の『花様年華』の約10年間だ。1988年の初監督作『いますぐ抱きしめたい』も含め、その作品群にはマギー・チャン、トニー・レオン、レスリー・チャンといった何度も起用されるキャストがいて、彼らとの信頼関係が作品を新たな世界へ導いていったこともよくわかる。


 1997年の『ブエノスアイレス』は、トニー・レオンとレスリー・チャンによるラブストーリーという点で、その信頼関係が複雑な方向へ発展したことで傑作が生まれた、ある種、稀有なケースである。香港を離れ、地球の真逆にあるブエノスアイレスで4ヶ月にわたる撮影を行ったのも、カーウァイ作品としては異例。ただ、この4ヶ月という期間は、監督にとっては短めの部類に入る。『欲望の翼』は約2年、『楽園の瑕』(94)は2年以上、『花様年華』も撮影期間に15ヶ月以上を要しているからだ。



 一方で『恋する惑星』(94)は2ヶ月半という短期間。しかも『楽園の瑕』の撮影が中断している間という、フレキシブルな対応だったりして、もちろん出演者のスケジュール調整なども関係しているとはいえ、ウォン・カーウァイの映画作りは、つねに流動的である。それはストーリーに対しても同じで、明確な方向性は避けられ、撮影しながら次々とアイデアが加えられ、編集が終わるまでどんな作品になるかわからない。その流動性が傑作に結びついたのが、先述した10年間であった。


 当初『ブエノスアイレス』でも、トニー・レオンに伝えられた役どころは「アルゼンチンで殺された父親の遺体を引き取りに来る男。やがて、父には男性の恋人がいたと知った彼は香港に戻った後、その相手の男性を愛していると感じ始める」というものだった。しかしトニー・レオンが撮影でブエノスアイレスに到着すると、カーウァイは、それ以前にイメージしていた2人の男性のラブストーリーにあっさりと変更。そのアイデアをトニーが渋っていたので、とりあえずブエノスアイレスに彼を来させて、無理に巻き込みたかったようでもある。


 「ラブシーンは撮らない」と聞かされていたトニーだが、こともあろうか撮影初日にレスリー・チャンと絡み合うシーンが演出され、しかも途中で急遽、全裸になることを指示されたわけで、その戸惑いと不安は如何ばかりだったか。しかしトニーの混乱した精神状態が、演じるファイにのりうつっていった事実も、完成作を観れば明らかである。




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