変化する演出スタイル
Q:演出のスタイルが変わっていくところも、この作品の特徴でした。スタイリッシュになったかと思えば、リアルな雰囲気になったり。
レイトン:そうです、場面場面によってスタイルを変えていきました。具体的にはカメラ、画面の中の配色、音楽などを、登場人物がそのとき直面しているシチュエーションに合わせていくというやり方です。
例えば、10代の若者たちが目的もなく何かを待っている状態を等身大に描いたり、強盗計画が現実味を帯び始めると同時に、劇映画的なファンタジーの世界に入っていったり……。そこから映画的な言語も変わっていきます。ドキュメンタリーの要素を少なくして、ステディカムの使用や音楽のジャンルを変えることで、『レザボア・ドッグス』(92)や『オーシャンズ11』(01)のような犯罪映画の雰囲気を作り上げました。
Q:本作はそのような演出によって、観客を彼らの共犯者のような気分にしていくわけですね。しかし、被害者が存在する実際の犯罪を題材にすることには倫理的葛藤があったかと思いますが……。
レイトン:彼らが犯したことは、もちろん法的にも道徳的にも間違っています。おっしゃるように、観客は彼らの行動を追いながら共犯のようになっていって、この先どうなるのかが知りたいと思ったり、ときには応援しながら観ることになるはずです。彼らと同じく『レザボア・ドッグス』のような犯罪計画のファンタジーに参加していくわけです。
本作では、実際に犯罪計画をスタートさせたときに、ファンタジーと現実が衝突することになります。そこから演出上も、より生々しい世界に切り替わる。一線を超えてしまった瞬間、『オーシャンズ11』でジョージ・クルーニーが演じたような楽しい状況ではなく、本当には何が起こったかというのが分かる。現実に戻る瞬間が訪れる。
そこでは、彼らを見守っていた観客も同じ体験をすることになります。現実に帰ったときに、ひどい目に遭わされた被害者がいるんだということに気づいてしまう。そのときには、もう手遅れで、戻りたくても戻れない。それを観客にも体験させるということが大切で、この部分が倫理的な答えになっているのではないでしょうか。
そして、「これが現実なんだ」ということを観客に分かってほしかった。ドキュメンタリー監督でもある私が本作を撮った意味は、ここにあります。
Q:なるほど、よく分かりました。監督の次回作も、やはり実話を基にしたものになりそうですか?
レイトン:じつは次回作は……私にとって初めてになるのですが、“事実に基づいてない”、完全にフィクションの作品を手がける予定です。
しかし、フィクションであろうと、それが実話のように見えなければ面白くありません。観客に、それをどう実話として見せていくかというのを、いまから考えているんです。見た人が「これは実話なんだ」とだまされるような、ね。
新しい物語の語り方を確立した本作『アメリカン・アニマルズ』は、その意味で映画史に名を残すタイトルになるかもしれない。 ドキュメンタリー監督としての経験を活用してジャンルをまたいだり、シーンによって演出スタイルを変えていくなどの実験精神や器用さを持つ、バート・レイトン監督。彼の今後の試みにも期待したい。
原本所蔵:明星大学、撮影・印刷:大日本印刷、制作・販売:丸善雄松堂
脚本・監督:バート・レイトン
『アメリカン・アニマルズ』が長編ドラマとしての初監督作品となる。2012年に監督したドキュメンタリー映画『The Imposter』でその独創性と語り口が批評家から高い評価を得て、オースティン映画批評家協会賞、英国アカデミー賞最優秀デビュー賞、英国インディペンデント映画賞(最優秀ドキュメンタリー賞ほか2部門)をはじめ、世界中の映画祭で30ノミネート、12受賞を果たした。斬新なスタイルとジャーナリスティックな手法で挑戦的なテーマにも果敢に取り組むことで知られているクリエイター。12年間イギリスの大手制作会社Rawの創作局長を務めており、賞に輝くドキュメンタリー作品やシリーズ物の数々を手掛けてきた実績がある。『The Imposter』は英国歴代最高収益を上げたドキュメンタリーとして記録されている。