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『ビフォア・サンセット』「永遠」を生み出し閉じ込めた、奇跡の映画

(c)2017 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ビフォア・サンセット』「永遠」を生み出し閉じ込めた、奇跡の映画

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9年後、二人はどうなったのか



 物語は、パリのセーヌ川近くの書店「シェイクスピアと仲間たち」から始まる。かつて列車のなかでパリの美しい女性と出会い、ロマンティックな時間を体験したアメリカ人青年ジェシー(イーサン・ホーク)は小説家になっており、その9年前の出来事をそのまま小説にして発表していた。本はヨーロッパでも売れ、このパリの書店で作家本人を囲む読書会&質疑応答が行われていた。


 質問に答えている最中、彼は自分を見つめている一人の女性に気づく。9年前にウィーンで過ごした、あのセリーヌだ。読書会が終わると、二人は再会を喜び、かつてのウィーンでのデートと同じように、パリの街を歩きながら言葉を交わしていく。


 その話のなかで、二人の事情が段階的に明かされていく。セリーヌは、学校を卒業したあと環境保護団体の職員となり、現在もパリに在住していた。彼女はジェシーの書いた本を読んで、読書会に駆けつけたのだ。



『ビフォア・サンセット』(c)2017 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 さて、9年前に「半年後に会おう」と二人が交わした約束は、一体どうなっていたのか。9年後の彼らの会話から、じつは約束の日、セリーヌは祖母の葬儀のためパリにとどまり、ジェシーだけが約束の場所を訪れていた。連絡先を交換していなかったため、二人はあのとき以来、全く会うことができなかったのだという。その後、アメリカに帰ったジェシーは別の女性と結婚して、子どもが一人生まれていた。セリーヌの方は、何人かの男性と恋愛をしていたが結婚には至らず、いまはアパルトマンで猫と暮らしている。



時間制限の中で交わされる駆け引き



 ここでの観客の興味は、再会した二人はこの後どうするのか、いまのお互いに対する気持ちはどうなのかという点であろう。パリの街を歩きながらセリーヌやジェシーが発する言葉は、現実の人間の会話がそうであるように、頭の中でいろいろと計算しながら交わされていて、そこで言われていることは、嘘や建て前が含まれている。


 考えてみれば、9年も経って出会った二人が、すぐに打ち解けて話せるわけがない。駆け出して抱き合ったり、「まだ私のことが好き?」だとか「また君と恋愛をしたい」などと直接的な話はできないのだ。回り道をしながら、おそるおそるお互いに相手の本心に迫っていく。前作でセリーヌは、「もし魔法というものがあるのなら、それは人と人の間にある」と述べている。このようにお互いの心の距離(ディスタンス)をつめていくことこそ、「恋愛」が始まる姿そのものなのではないだろうか。


 前作では、その距離をつめるのに14時間のデートを要した。しかし本作では、ジェシーがニューヨーク行きの飛行機に乗るため、空港に行くことになっているので、今回の二人には、それまでの時間…およそ映画一本分ほどしか与えられていない。つまり本作は、リアルタイムに近い時間感覚で描かれていくのだ。さらにジェシーは、二人の関係を妨げる家族への義務を持っている。シビアな時間制限と、前作よりもさらに越えがたい壁によって、本作はサスペンスのような要素をはらみ、観客はハラハラさせられることとなる。



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