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『女優霊』『リング』を生み出した高橋洋。『霊的ボリシェヴィキ』で切り開いた恐怖表現の新境地とは?【Director’s Interview Vol.32】

『女優霊』『リング』を生み出した高橋洋。『霊的ボリシェヴィキ』で切り開いた恐怖表現の新境地とは?【Director’s Interview Vol.32】

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人が語るだけで「恐怖」を感じさせる秘密



Q:監督としては、人が喋っているだけでいいのか、という不安はありませんでしたか?


高橋:すごくありました。賭けだなと思いました。ものすごく退屈な映画になったらどうしようと(笑)


Q:でも、作品は大成功でした。怪談を語る雰囲気に引き込まれますし、あの怖さは新感覚だと思います。人が語るだけで怖いと感じさせるために、監督は役者さんにどんな指導をされたんですか?


高橋:どのように俳優さんが語るかに賭けていたので、リハーサルの時に何回も何回も語ってもらいました。でも稲川淳二さんみたいに巧みな芸として語っちゃ駄目だし、かといって本当にド素人の整理されてない言葉でも良くない。それはリアルかもしれないけど、お客さんにとっては集中できないものになっていくので。


だから出演者には「台本に書いてあるセリフは一字一句言ってください。用意された言葉だけど、自分の体験として語って下さい」とお願いしました。その上でそれぞれの喋り方をリハーサルで繰り返しながら発見していってもらいました。それを僕が聞いていて、「あ、これ本当に聞こえるし、怖いな」というのが出た時に「それを覚えておいてください」とお願いしました。撮影期間が短かったので、覚えておいてもらったことを現場でもやってもらうという感じです 。


Q:リハーサルの時、まるで降霊会のようだったとスタッフの方がコメントされていますが、監督は役者さんにどれぐらい細かく指示を出していたんですか?


高橋:喋りのトーンにはこだわりました。少しでもトーンが崩れると緊張感が散ってしまうので、役者さんが作ったトーンで良いものがあれば「今のです」という。そこからずれた時には「戻してください」と指示を出しました。そんなに手取り足取り教えたりはしなかったですね。




Q:語りで恐怖を表現するには声のトーンが重要なんですね。


高橋:もしかしたら、人間の心に響く声のトーンがあるのかもしれないですね。みんなで集まって、遊びのように怖い話をする時でも、普通に聞き流す話と、「なんかそれ怖いからやめろよ」みたいになる話ってありますよね。そういう時って「何か」を呼んでしまっている。


元々はるか昔は、怖い話というのは語ってはいけないものだったんです。語ると「何か」が来てしまうから。そういう古代に我々が持っていた感覚に立ち返る瞬間がある。そこに立ち返るには、ただ何でもいいから話せばいいというわけではなくて、特有の話し方、「トーン」がある。それを「こうすればできる」という明確な方法論はないですけど、聞いているうちに分かってくる。今だ、と。それをキープしてもらう。


Q:途中でインタビュードキュメンタリーを見ているような錯覚に陥りました。劇場で見ていると劇場全体が霊的な場になってしまうような・・・。


高橋:だから怪談を再現ドラマにしなくて良かったんです。録音部の人に言われたんですけど、もし再現ドラマにしていたら全部過去形の話になったけど、語りにしたから全部現在形の話になったんだと。演出プランを立てた時にはそこまでは考えてなかったけど、確かにそうだなと。




Q:怪談のストーリーも独特で不思議な感じでした。「山の上に何かが見えた」という話がありましたが、ぼんやりしているんだけど怖い。


高橋:怪談ってそういうものだと思うんです。起承転結でしっかり形作られたものではない。実話を素材にしているので、そうならざるを得ないという部分もありましたが。


Q:実際の体験談を取材して書かれたものなんですね。


高橋:何しろ20年も恐怖映画の脚本を書いていますから、その間にいろんな話が耳に入ってくる。その中から厳選したネタを今回は使いました。


Q:映画で語られる怪談を聞いた時に「遠野物語」(※注2)を思い出しましたが、影響は受けていますか?

※注2 「遠野物語」:民俗学者・柳田国男が1910年に発表した岩手県遠野地方に伝わる言い伝え、逸話などを蒐集した説話集。


高橋:こういう映画をやっている人はみんな影響を受けていると思います。何のことかわからないけど聞いた瞬間にゾクッとする。居心地が悪い。そういう話の原点みたいなものですよね。ああいうのが本当の怖い話だと思います。


Q:この映画が「ホラー」というとジャンルでくくることができるかといえば、それは難しい。でも確実に怖い。高橋監督の「恐怖表現」を再定義しようという試みにも感じられました。


高橋:「ホラー映画好きなんですか?」とよく聞かれるんですけど、自分の中にある怖い感覚を表現する映画が好きなんです。別にジャンルは限らないです。社会派ドラマだってメロドラマだって「怖い」と思うシーンがあるわけですから。だから今までの作品でもホラーを作るぞ、ホラーに落とし込むぞ、という作り方を特にしていないんです。自分が怖いと思ったことをやろうと思っているので。


だから、自分の作る映画をジャンルでくくることは考えていません。ただどうしてもホラーとして扱われるので、そういう時は諦めています(笑)。




Q:今作は映像がとても硬質で、冷え冷えとした空気感が伝わってきます。6日ほどの短い撮影期間で、どんな点にこだわられたんですか?


高橋:狭い場所で撮影しても空気のやばい感じが出ないので、あれぐらいの広さが必要でしたが、あんな広い場所を使おうとしたら普通はもっとライトを焚かなければいけないんです。でもお金がなくて十分なライティングできないから、天気にかけるという作戦でした。あのロケ地は太陽の光が直接的に降り注ぐので、冬の硬い冷たい光が表現できたと思います。


Q:光の質感が独特で、それがまた怖い。


高橋:最後のシーン、途中で日が陰るんですけど、あれは偶然なんです。太陽が雲に入ってしまったんですが、びっくりしました。あれは計算してもできない。普通、撮影部的には、ああいうことは起きてはいけない。時間がないから太陽に雲がかかりかけているのはわかっていても本番を回す。するとやっぱり途中で太陽が雲に入っちゃったけど、実にいいタイミングで入ってくれた。



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