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『女と男の観覧車』ウディ・アレンが観覧車(ワンダー・ホイール)を選ぶ理由

(C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

『女と男の観覧車』ウディ・アレンが観覧車(ワンダー・ホイール)を選ぶ理由

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シンクロする名作『アニー・ホール』の少年時代



 アレンの半自伝的作品と言われている『 アニー・ホール』では、アレンの分身のような主人公アルビーはアレンと同じブルックリン育ちで、子供の頃はコニーアイランドのローラーコースターの真下の建物に住んでいた。しかもアルビーの父親はコニーアイランドの遊園地で働いていた。つまり『女と男の観覧車』のジニーとハンプティの夫婦は、住む場所が観覧車の側に変わっただけで、アルビーの両親とほとんど同じ境遇なのである。


 実際にはアレンは同じブルックリン区でもコニーアイランドの出身ではないし、父親も宝飾職人で遊園地の従業員ではなかった。しかし『アニー・ホール』で描かれたアルビーの少年時代も『女と男の観覧車』の時代設定も1950年代であり、アレンの少年時代と重なり合う。ジニーの前夫との息子で放火癖のある問題児リッチー(ジャック・ゴア)を、不安定な家庭環境で育った少年時代のアレンと重ね合わせてしまうのも、強引なこじつけではないだろう。



『女と男の観覧車』(C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.


 『アニー・ホール』の撮影に使用された建物とローラーコースター“サンダーボルト”はすでに取り壊されて現在は跡形もない。もしローラーコースターが現存していれば『女と男の観覧車』は『女と男のローラーコースター』になっていただろうか? 物語とのカップリングの良さで言えば、ローラーコースターよりもワンダー・ホイールの方がジニーの人生を皮肉に象徴している。


 ジニーは常に退屈な日常から抜け出すことを夢見ている女性で、決してローラーコースターのような激しいアップダウンを求めてはいない。ビーチ監視員のミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)との浮気にのめり込むのも、ミッキーが人生のどん詰まりから連れ出してくれると信じているから。中年期の真っ只中にいるジニーは、程よい刺激を欲していても、内心では安定を望んでいる。だからこそミッキーの軽口を真に受けて、ミッキーと結婚できると信じ込むのである。



『女と男の観覧車』(C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.


 ちなみにワンダー・ホイールは偏心観覧車と呼ばれるタイプで、ゴンドラが正円を描いて一周するのではなく、ランダムな揺れ方をするように設計されている。スリルを求める人に予測不可能で宙ぶらりんな感覚を味わわせてくれるのだが、結局は正円からはみ出ることなく同じところに戻ってくる。出口がないギニーの人生を象徴するかのようなアトラクションであり、アレンらしい皮肉なチョイスではないだろうか。


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