1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 『NO選挙,NO LIFE』、今年のベストワン【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.42】
『NO選挙,NO LIFE』、今年のベストワン【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.42】

(C)ネツゲン

『NO選挙,NO LIFE』、今年のベストワン【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.42】

PAGES

  • 1


 今年見たなかで文句なしにベストワンです。僕は11月14日、新宿ピカデリーの東京先行プレミアイベントでこの映画を見たんですよ。ポレポレ東中野で封切られる4日前だから、一般客としてはいちばん早いと思います。で、誰にも頼まれないのに応援したくなった。公開週は告知や映画評が集中するから、映画コラムを書くのを2週間遅らせました。その間に東京、横浜ではしっかりお客さんがつき、いよいよ12月は名古屋、仙台、福島など地方へ拡大が始まります。僕のコラムはそのタイミングに合わせたものと思ってください。つまり、「矢も楯もたまらず公開日に駆けつけました」という方は読む必要がありません。そういう方はもう畠山理仁が何者か、前田亜紀が何者か十分知ってらっしゃるわけです。


 僕が話しかけたいのは「なんか評判になってるのは知ってるけど、どんな映画なの?」という方です。まだ畠山理仁にも、前田亜紀にも出会っておられない方。よかったですね、これから出会えるんですよ。きっと心があったかくなりますよ。僕の感想をあらかじめ言っとくと、根幹はそこのところです。世の中捨てたもんじゃないなぁ。畠山さんや前田さんがいる。映画を見に来た人がいる。オレも元気出さなきゃつまんないな、という感じ。


 順番に説明すると、畠山理仁さんというフリーライターがこの映画の主人公です。選挙取材を主たる活動にしていて、これがもう日本全国津々浦々、「選挙漫遊」と称して心の赴くまま取材に明け暮れている。新聞社に所属していないから、記者クラブ的な政局中心の取材ではない。自民党だろうが共産党だろうが、スマイル党だろうが「バレエ大好き党」「議席を減らします党」だろうが、分け隔てなく話を聞く。一般には「泡沫(ほうまつ)候補」と呼ばれる、当選の望みの薄い立候補者(多くは供託金を没収される)にもきちんと向き合う。ここがものすごいところです。立候補者全員の取材が終わるまで記事を書かない。コスパ&タイパ無視! だからまったく儲からない。儲からないどころか赤字が出る。映画のなかでも畠山さん、何度も辞めたいと口にする。



『NO 選挙, NO LIFE』(C)ネツゲン


 僕が畠山さんを知ったのは『黙殺  報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(2017年、集英社)が話題になった頃です。これは第15回 開高健ノンフィクション賞を受賞した。一読して畠山さんの個性に惹かれました。「泡沫候補」たちを揶揄し冷笑するのでなく、誠実に寄り添ってその「人間」を描き出している。政治と選挙の可能性を、つまり民主主義の可能性をどこまでも愚直に追いかけている。「踊る阿呆に見る阿呆」という阿波踊りのフレーズを連想しました。選挙という祭りのなかで踊る「無頼系独立候補(いわゆる泡沫候補)」も面白い。だけど、それを追いかける「見る阿呆=畠山理仁」も負けずに面白い。これはどっこいどっこいなわけです。選挙の強烈な磁場のなか、「踊る阿呆」と「見る阿呆」が互いを際立たせている。何て面白い世界を何て面白い人が覗いているのか。


 で、話は『NO選挙,NO LIFE』に至ってもう一段面白味を増します。いいですか、そこに一枚、前田亜紀監督が加わるんです。すごい構造です。「踊る阿呆に見る阿呆」を更に一歩進め、「見る阿呆」の肩越しにカメラを据えた、「踊る阿呆に見る阿呆に撮る阿呆」という三段重ねが成立する。これは僕は保証しますが、全員どうかしています。「踊る阿呆」が供託金没収上等なら、「見る阿呆」はコスパ、タイパ無視!、「撮る阿呆」は作品が当たるかどうか出たとこ勝負です。みんな熱に浮かされたように走っている。ここにはお利口さんがいないんですよ。選挙ドキュメンタリーの映画っていうと舌鋒鋭いイメージがあるじゃないですか。『NO選挙,NO LIFE』は(驚くほど!)映ってる人も、映画の切り口も舌鋒鋭くありません。誰も論難しないし、誰も糾弾しない。そういうものを撮ってるんじゃないんだ。僕は変にロジックで構成したりせず、ニュアンスとして「直感的」「生理的」な「撮る阿呆」に徹した前田監督はとても信用できると思います。


 さて、阿波踊りの、「踊る阿呆に見る阿呆」のフレーズを出したのには理由があります。その続きは「同じ阿呆なら踊らにゃ損々」ですよね。ここが選挙ドキュメンタリー、『NO 選挙,NO LIFE』のユニークなところです。ズバリ、参加性です。冒頭、「誰にも頼まれないのに応援したくなった」と申し上げましたよね。この映画にはそういう魅力がある。12月3日にポレポレ東中野で「発声可能 応援上映」が企画されているんですよ。インド映画なら珍しくないけど、これ選挙ドキュメンタリー映画ですからね。ドキュメンタリーの応援上映って聞いたことありますか? 僕はその日、取材を入れててポレポレ東中野へ行けないんですけど、畠山さんが赤字続きで「もう、これで最後にしようかと思ってます」って言う度に、客席のみんなで「がんばれ!」「あきらめるな!」と応援したいですよ。


 つまり、参加性です。「『踊る阿呆に見る阿呆に撮る阿呆』に更にそれを見る阿呆」という構造。それは大きな意味で、選挙という祭りにみんなを駆り立てていく。応援上演で「がんばれ!」「あきらめるな!」と声がけするとき、それは畠山理仁に向けてでもあるし、前田亜紀に向けてでもあるし、立候補者へ向けてでもあるだろうけど、もしかしたら自分に向けてなんですよね。混沌としてむちゃくちゃだけど、民主主義をあきらめるな。断然、おススメします。



文:えのきどいちろう

1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido



『NO 選挙, NO LIFE』を今すぐ予約する↓




『NO 選挙, NO LIFE』

11月18日(土)よりポレポレ東中野、TOHOシネマズ日本橋ほか全国順次公開中

配給:ナカチカピクチャーズ

(C)ネツゲン

PAGES

  • 1

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 『NO選挙,NO LIFE』、今年のベストワン【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.42】