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『ポトフ 美食家と料理人』ブノワ・マジメル 演じる役と自分の共通項を見つけること【Actor’s Interview Vol.35】

(c)Carole-Bethuel(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

『ポトフ 美食家と料理人』ブノワ・マジメル 演じる役と自分の共通項を見つけること【Actor’s Interview Vol.35】

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俳優は40代で役に恵まれる



Q:劇中でドダンが「すでに持っているものを求め続ける」というアウグスティヌスの言葉を引用します。これは、あなたの俳優業にも通じる言葉ではないですか?


マジメル:そうですね。何かを手にしたからといって、そこで固定してしまうのではなく、もっと愛することで、その何かは流れるように変化していくでしょう。私は「確信」を感じたことはないし、「ルール」にも縛られません。昨日の確信やルールは、今日は通じないからです。昨日と今日で、どちらが正しいかもわからない。その際に周囲の言葉にオープンに耳を傾けることが大切。そんな意思で毎回、異なる役を演じているのです。たとえばアルベル・セラ監督の『Pacifiction(原題)』(22)では、脚本に一切セリフが書かれておらず、カメラの前に入っていくタイミングも任せられという、最大級の自由を与えられました。私は自分が感じていることを、その瞬間、その瞬間で表現したわけです。そして今回のトランは、ディテールや全体のバランスに気を遣う監督で、それも初めての体験。このように俳優として変化を満喫しています。


Q:あなたのキャリアにおいて重要だった監督や作品を挙げてください。


マジメル:クロード・シャブロル監督とは『悪の華』(03)や『石の微笑』(04)、『引き裂かれた女』(07)で、俳優として、そして一人の人間としてリラックスすることの重要性を教えられました。『ピアニスト』のミヒャエル・ハネケ監督からは、リハーサルによる模索の重要性を学びました。自分が映画の作者になったかと錯覚するまでリハーサルを行うのです。そして俳優として「子供のように純粋に楽しんだ」という視点では『王は踊る』(00)のルイ14世役でしょうか。撮影の初日にゴージャスな衣装を身に着け、教会に入っていくシーンを撮ったのですが、まわりの人が全員、私のためにひざまずき、王様の気分を味わえたからです(笑)。



『ポトフ 美食家と料理人』(c)Carole-Bethuel(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA


Q:子役時代から現在まで、俳優業を振り返ってどのような感慨がありますか?


マジメル:14歳の頃は、俳優は40歳を過ぎたら素晴らしい役がオファーされるだろうと予想していました。そして、それは現実になり、この10年くらい信じられないほど役に恵まれています。むしろ30代は不安定で、あまり幸せな気分になれませんでした。若さは失われつつあるし、かと言って成熟もしていない。映画の役としても、その年代はどこか中途半端だったからでしょう。今は人生経験が豊かで、苦味もある俳優に憧れています。年齢を重ね、必要のないものを削ぎ落としていきたいですね。


Q:その意味で40代の最後に『ポトフ』のような作品に出会えたことは必然だったのですね。


マジメル:私のキャリアでちょうどいいタイミングで本作と遭遇しました。この年代になると時間をかけることの大切さを身にしみて感じます。もっと若い時代はまるで生き急ぐように、料理であればいろんなものを食べ、その他にもあらゆる体験をしたがる。ようやくこの年齢になって、仕事に対して自然なかたちで時間をかけられるようになり、『ポトフ』のドダン役に巡り会えました。今こだわっているのは、人間として純粋に演じたい役。そして「この人と一緒ならやりたい」と思える相手。そんな風に仕事を選んでいくと、「この作品がこれほどまで観客に受け入れてもらえるのか」と大きなサプライズを得られると、最近になって噛み締めています。そして10年後は、さらに迷いも消えて理想の俳優像に近づいている予感もします。




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(c)Stéphanie Branchu(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA


ブノワ・マジメル

1974年、フランス、パリ生まれ。『人生は長く静かな河』(88)で映画デビュー、才能あふれる子役として注目される。その後、アンドレ・テシネ監督の『夜の子供たち』(96)でセザール賞有望若手男優賞にノミネートされ、ミヒャエル・ハネケ監督の『ピアニスト』(01)でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞し、実力派俳優として認められる。 2015年には、エマニュエル・ベルコ監督の『太陽のめざめ』でカトリーヌ・ドヌーヴと共演し、セザール賞助演男優賞を受賞する。ベルコ監督の『愛する人に伝える言葉』(21)で再びカトリーヌ・ドヌーヴと今度は親子役で共演し、セザール賞主演男優賞に輝き、今やフランス映画会を背負う存在となる。ジュリエット・ビノシュとは『年下のひと』(09)で共演し、一時期パートナーであった。その他の主な出演作は、ルイ14世を演じた『王は踊る』(00)、『銀幕のメモワール』(01)、『クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち』(04)、『パリ、憎しみという名の罠』(17)、『地下室のヘンな穴』(22)、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『パシフィクション』(22)、同映画祭「ある視点」部門で上映された『Rosalie(原題)』(23)など。



取材・文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。





『ポトフ 美食家と料理人』

12月15日(金)Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

配給:ギャガ

©2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA

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