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『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』、エバーグリーンの輝き【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.49】
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何と「ロッタちゃん」シリーズ2作のリバイバル上映です。『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』(92)、『ロッタちゃんのはじめてのおつかい』(93)。日本公開が2000年だったそうですからほぼ四半世紀ですね。これは嬉しい。今回、なぜ『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』の方を取り上げるかというと、(ま、こちらが第1作だからですが)完全に僕の好みです。映画の後半、ロッタちゃんがかんしゃく起こすシーンがあるんですけど、ここがホントに最高! いやもう何回見ても爆笑してしまいます。なので一人でも多くの方にあのかんしゃく玉炸裂シーンを見てもらいたくて、「赤いじてんしゃ」の方にしました。
「赤いじてんしゃ」「おつかい」はそれぞれ単体で見て、ぜんぜんオッケーな作品です。一応、続きものではあるけれど、設定がシンプルなので問題ない。まぁ、話の筋がどうこうじゃないんですね。そこに映ってるエバーグリーンの輝きですよ。たぶんどんな大人も5分で子どもの頃の懐かしい感覚に帰ることができる。
作品はまったく古びていません。これはもう、原作のアストリッド・リンドグレーン作品同様、永遠ですね。リンドグレーンは『長くつしたのピッピ』で著名なスウェーデンの児童文学者です。僕はピッピのシリーズに小学生の頃、和歌山の図書館で出会ったんですけど、あまりにも面白くて、続きが読みたくて読みたくて学校から走って帰った記憶があります。あんなに奇天烈で、自由な物語に触れたことがなかった。リンドグレーンはピッピのほかにも沢山のシリーズを手がけていますが、この自由で、のびやかな感じが特徴ですね。子どもがダメと禁じられたり、ガマンを強いられてることを、機知や向こう見ずな勇気でひっくり返して見せる。世界じゅうの子どもがリンドグレーン作品を読んで解放感を味わったのです。あんな楽しい読書体験はなかった。
ロッタちゃんは『さわぎや通りのロッタ』でこの世に誕生した5歳の少女です。物語の舞台はスウェーデンのカルマル県ヴィンメルビー。リンドグレーンの故地として世界的に有名になり、博物館「アストリッド・リンドグレーン・ネース」(敷地内にリンドグレーンが幼少期に暮らした家が保存されてます)が人気を集めている。もちろん物語のなかではスウェーデンの一典型を成す田舎町という感じです。そこら辺はエーミル少年シリーズなんかと同様ですね。
ロッタちゃんはその田舎町ヴィンメルビーで両親と兄、姉と暮らす末っ子です。とにかくガンコできかんぼうですね。そして、バムセと名付けられたブタのぬいぐるみを偏愛している。このバムセが人気になっていて、3/19夜には新宿シネマカリテで「バムセナイト」と銘打たれた先行上映イベント(観客の「バムセ民」が皆、ぞれぞれのバムセを持ち寄り、「バムセ乾杯」して盛り上がる)が実現したそうです。何と今回のリバイバル上映には映画で使用された本物のバムセも「単独来日」(?)しているのです。
『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』©1992 AB SVENSK FILMINDUSTRI ALL RIGHTS RESERVED
実は僕にはスウェーデン人の親戚がいるんですよ。まぁ、遠縁の子がストックホルム出身の男性と国際結婚したからなんですけど、おかげでイングマール・ベルイマンやABBAやビヨン・ボルグ等のぼんやりしたイメージしかなかったスウェーデンって国の解像度がだいぶ上がった。『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』のなかで、家族みんなでピクニックに出かけるシーンが出てきますが、あれはすごくスウェーデンっぽいエピソードなんですね。スウェーデンにはその名も「自然享受権(アッレマンスレッテン)」という権利が法律で定められていて、誰でも自然のなかを散策したり、キャンプしたりできるんです。驚くのはそれが他人の所有する土地であっても、というところです。自然はみんなのものだという発想ですね。だからスウェーデン人家族にとってピクニックは欠かせない行事です。
ロッタちゃんの願いは兄ヨナスや姉ミアに負けないくらい早く大きくなることです。僕も映画を見ていて、小学生の頃、身体測定をして身長や体重(体重もですよ!)が増えていると嬉しかったのを思い出しました。で、これがリバイバル上映のすごいところですけど、32年前、ロッタちゃんを演じたグレテ・ハヴネショルドさんから日本のファンへ向けてビデオメッセージが届いたそうなんです。小説のロッタちゃんは永遠の5歳だけど、映画のロッタちゃんは「大きくなったらどうなるか?」の答え合わせができてしまう。グレテ・ハヴネショルドさんは現在37歳。演劇活動を続けているそうです。すごいのは、何と3人のお子さんのママだそうなんです。ロッタちゃんのお母さんとそっくり同じですね。
そういえばスウェーデン人の親戚と『ストックホルムでワルツを』(13)の話は結構したんですけど、ロッタちゃんのことは聞かなかったなぁ。彼はグレテ・ハヴネショルドさんより年下だから、たぶん幼少期にロッタちゃん映画を見ているはずで、見え方も違うんだと思う。僕らも子役スターだった人(芦田愛菜ちゃんとか、えなりかずき君とか)の大人になった姿には思うところありますよね。
もちろん「37歳のグレテ・ハヴネショルドさん」が実像です。僕らは(自分自身が年を経て、成長したことと重ねて)「37歳のグレテ・ハヴネショルドさん」を祝福することができる。だけど、心のなかにいつも「かんしゃくを起こしている、きかんぼうのロッタちゃん」を住まわせてもいる。エバーグリーンの存在というのはそういうことです。映画を通じて、自由でのびやかな心を取り戻してください。
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