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芝居重視の直球勝負で人間を描いた。湯浅弘章監督『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』【Director’s Interview Vol.5】

芝居重視の直球勝負で人間を描いた。湯浅弘章監督『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』【Director’s Interview Vol.5】

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経験が支えた長編デビューのタイミング



Q:映画には「吃音」「どもり」といった直接的な言葉が一切出てきません。


湯浅:そうですね。押見先生が原作でおっしゃってたんですけど、吃音の方だけに向けた作品にはしたくないと。僕もそれにすごく共感してて、吃音の方だけに向けた映画にしては駄目だなって思いました。もちろん吃音の人に届く映画にしたいですし、10代で悩みを持ってる人全員に届く映画にしたいなというのがあったので、普遍的に通用する映画にするべく、直接的な言葉は使いませんでした。




Q:監督は長編商業映画を手がけるのが今回初めてということですが、制作にあたり気を付けた点などはありますか?


湯浅:あまりうまく作る感じにせず、粗削りな感じにしようと思ってました。例えば、普通だとNGになるような、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになってるカットをそのまま使ったりしました。空気感をそのまま切り取ってライブ感を出したかったんです。今回はそういう普段は出来ないことを、細かいところまでこだわって出来たかなと思っています。


Q:監督は助監督時代に、押井守さんについてらっしゃいますが、押井さんから学んだことなどあれば教えてください。


湯浅:押井さんから演出的なことで教えてもらったことっていうのはあまりなくて、どちらかというと監督としてどう生きるかとか、どういうふうにスタッフと接するかとか、監督哲学みたいなのものを叩き込まれました。演出は監督それぞれだからそこは真似する必要はないと。


押井さんってもともとアニメですけど、アニメの前は実写の人で、大学時代は実写で自主映画やってた人なんです。金子修介監督とかと一緒の映画サークルで、映画青年だったんですよね。今回この作品を観ていただいて、その後一緒に飲みに行ったんですけど、映画批評がすごくて、やっぱり押井さんは映画青年なんだなと。


Q:ポジティブな批評だったんですよね?


湯浅:基本的にすごく褒めていただきました。僕は15年ぐらいの付き合いですけど、褒められたのは初めてです。僕だけの内緒の演出とかを全部見抜いてて、この人やっぱりすごいなと思いましたね。




Q:押井さんはこの作品に対して「吃愕するほどの直球です」とコメントされています。直球って逆に難しいと思いますが、少しひねりを加えたりしたくなりませんでしたか?


湯浅:起承転結が既に出来上がっていたので、そこをいじる必要はないかなって思いました。大事なのは、そこからどうやって肉付けするか、もしくは減らしていくということかなと。漫画原作モノでよくある、キラキラ青春映画にすることもできるわけですが、どういう方向に作っていくかプロデューサーたちと話してて、芝居重視のちゃんと人間を描く映画にしましょうということになりました。自分たちの思う通りのちゃんとしたものを、しっかり作ろうってなったんです。


Q:こうして長編商業映画を完成させ、監督自身、ついに夢がかなったというところに来ていると思いますが、その辺のお気持ちはいかがですか?


湯浅:それを言ったらいろんな愚痴とかありますけど(笑)。長編企画立ち上げて撮影直前でなくなったりとか、そんなことをこれまでに何回も繰り返してきました。ただ、20代で長編デビューするよりも、デビュー出来たのが30代の今でよかったと思っています。いろんな演出の仕方を覚えたり、いろんな人たちと出会えたり、いろんな経験をしてきて、今がいいタイミングだったのかもなって。もし20代でこの作品を撮ってたら違う映画になってただろうし、ここに来るまでえらく時間がかかったとは思いますが、やっぱり今でよかったなって思いますね。




Q:そもそも監督になりたいと思ったきっかけは?


湯浅:もともと映画がすごく好きだったっていうのもあるのですが、うちの父親が地方局の報道ディレクターだったんです。そういう意味で、表現ツールとしての映像が結構身近だったので、気が付いたら僕も映像を目指してましたね。


Q:では最後に皆さんにメッセージを。


湯浅:この映画は10代の話なんですが、今10代の人にも、かつて10代だった人にも、どちらにも届く映画だと思っています。問題を抱えてない10代はこの世にはいないと思うので、観ると必ず何かしら思うところがある映画になっています。映画館を出た後も何かが心の中に残ると思います。音楽映画でもあるし、ぜひ大きいスクリーンと音響で観ていただきたいですね。



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湯浅弘章 映画監督

1978年8月29日生まれ。鳥取県出身。京都造形芸術大学在学中より自主制作映画やMVを監督し、卒業後は林海象監督や押井守監督のもとで助監督を務める。『流れる』(01)がPFFアワード2003技術賞(IMAGICA賞)を受賞。『まばたき』(06)がPFFアワード2006審査員特別賞を受賞。『花』(06)が第13回函館港イルミナシオン映画祭、第10回シナリオ大賞でグランプリを獲得するなど数々の受賞歴を持つ。押井守総監修の実写オムニバス映画『真・女立喰師列伝』(07)の一編『草間のささやき 氷苺の玖実』を監督し商業映画デビュー。以降、撮影監督を務めると共に、監督としてもテレビドラマ「増山超能力師事務所」(17/ YTV・NTV)、「ワカコ酒 Season1~3」(15~17/BSジャパン・TX)、「男の操」(17/NHK BSプレミアム)、「リピート~運命を変える10か月~」(18/ YTV・NTV)や、乃木坂46のMV・ショートムービーなど数多くの作品を手掛ける。『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で満を持して長編商業映画デビューを果たす。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。




『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』

新宿武蔵野館ほか絶賛上映中!

© 押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

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