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『熱烈』でっかい感嘆符!をつけたい【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.61】

©Hangzhou Ruyi Film Co., Ltd.

『熱烈』でっかい感嘆符!をつけたい【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.61】

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 パリ五輪で新種目ブレイキンの魅力にハマッた読者の皆さんに、ぜひご覧いただきたいのがこの映画『熱烈』(23)です。中国のブレイキン映画。但し、ドキュメンタリーじゃないのでAMIさんもシゲキックスさんも出てきません。浙江省杭州市に住む貧しい若者がダンサーとして成長し、やがて夢をつかむというエンタメ劇映画ですね。これがホントにいい映画なんです。上映中、僕はずっとニコニコしていた。


 僕ら素人はブレイキンの世界観ってよくわからないじゃないですか。パリ五輪の中継も「おお、こういう感じなのか!」といちいち感心しながら見たし、解説者の白井健太朗さん(日本ダンススポーツ連盟、ブレイクダンス本部事務局長)の「hoo!」「wow!」みたいなノリノリ解説も「おお、こういう感じなんだなぁ」と思った。あとシゲキックスさんの印象が強い。メダルを逃がして言葉を失うくらい悔しいんだけど、いったん間を取って「僕に絶対必要な挑戦だった」「次世代の子たちにきっかけだったり、モチベーションを与えられたら僕は幸せ、頑張る意味がある」とコメントしたのは感動しました。僕はヒップホップカルチャーに深入りしなかった世代だけど、あぁ、ここにはすべてを懸ける価値のある「カッコいいこと」があるんだなと思いましたよ。


 で、『熱烈』ですけど、そんな「ブレイキンとかストリートダンスの世界観よくわかんない」的な立場でも楽しめるように仕上がってるんです。ブレイキン版の『少林サッカー』(01)だって言ってる人もいるけど、僕はより本質的には『THE FIRST SLAM DUNK』(22)だと思う。核心の部分に王道『少年ジャンプ』の努力・友情・勝利の三要素が埋め込まれている。ホントに『少年ジャンプ』世界です。ですから実写ではあるんだけど、見せ方がものすごくアニメーションっぽい。AMIさんやシゲキックスさんのいるリアルなブレイキン世界とは、たぶん別次元(パラレル)なんだけど、あぁ、中国にこんなマンガみたいなダンサーたちがいてもいいなぁと、がんばるんだぞうーと、ニコニコしながら思う感じですかね。



 『熱烈』©Hangzhou Ruyi Film Co., Ltd.


 興味深かったのは今、中国でお話をつくるとしたらこんな設定になるんだなという部分です。まず杭州市がどえらい都会なんでびっくりする。杭州市って大概、ガイドブックでは世界遺産の西湖の写真が出てるんですよ。唐代の白居易が詩に詠んだ湖の絶景と塔の写真。だから自然に恵まれた古都かなと思ったら、上海に負けない大都会です。で、その大都会で貧富の差をエネルギーにした物語が始まる。ざっくり言って話は「金持ちのボンボンで、天才ダンサー」のケビン(元CROSS GENEのキャスパー)がわがまま放題の悪役、それにダンスバトルを挑む食堂の息子、チェン・シュオ(ワン・イーボー。アイドルグループUNIQ)が純朴な主人公という、シンプルな二項対立で描かれていて、まぁ、ネタバレも何も「正しき者が邪(よこしま)な者を打ち負かす」図式だと、冒頭を見ただけで誰でもわかります。


 悪役ケビンのキャラクター設定には、現代中国の富裕層への憧憬と反発とが両方入り混じっています。おそらく映画の観客は素朴な主人公チェン・シュオと同じ階層、つまり、一般庶民なのでしょう。映画のなかで「選択権を持つのは強者だけ」という台詞が出てくるんですけど、そういう風に「強者=富裕層」が庶民には見えている。自分たちには選択肢がない。努力して一つことに打ち込む以外ない。


 主人公チェン・シュオにとってはそれがダンスなんです。杭州市ナンバーワンのダンスチーム「感嘆符!」のオーディションに落ちた(そのとき受かったのがケビンです)けれど、諦めきれず機会を見つけて踊ってきた。で、「感嘆符!」のコーチ、ディン・レイ(ホアン・ボー)に認められ、ケビンの代役に抜擢される。チェン・シュオはディンコーチの指導や、「感嘆符!」のダンサーたちとの交流を通じて成長していきます。


 見せ場はラストのダンスバトルです。全国大会出場をかけた浙江省代表決定戦。このダンスバトルは見応えあります。極端な話、このダンスバトルを見るだけでも映画代の価値がある。監督のダー・ポンさんはダンスアクション撮るのが上手いです。カット割りのテンポ感がとてもいい。ホントに楽しいシーンになってます。


 ぼくも若かったらブレイキン男子になって、クラスの友達とヘッドスピン合戦したいなぁと切実に思います。残念ながら昭和のプロレス男子はコブラツイストや足4の字がせいぜいだったんですよね。とりあえず青春って身体感覚なんですよ。考えるより動く方が先。その感じを強烈に思い出しました。 



1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido


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『熱烈』
9月6日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:彩プロ
©Hangzhou Ruyi Film Co., Ltd.

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