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『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』、ディスイズ適時打!【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.70】

© 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.

『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』、ディスイズ適時打!【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.70】

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 公開が1/17、大統領就任が1/20ですから、もう「適時打」と呼びたいくらい、まことに時宜を得た作品ですね。第47代アメリカ大統領として第二次政権を発足させたドナルド・トランプ氏の半生を描いたリアルストーリーをご紹介します。この映画の面白いのは「ドナルド・トランプは最初、我々の知るドナルド・トランプではなかった」事実を暴いてみせた点ですね。我々の知るドナルド・トランプとは、もちろん傍若無人、強気一本槍で、自分を一切曲げずに言いたいことを言いつのる、あのキャラクターです。最近は日本にも同じタイプの政治家(といって良いのでしょうか?)が出現して、世間の大ひんしゅくを買っていますね。


 映画『アプレンティス』(24)はその傍若無人キャラが出来上がる前の、気弱で劣等感のかたまりだったドナルド・トランプ青年をしっかり描きます。彼はニューヨークでもマンハッタンではなく、イーストリバーを隔てたクイーンズの出身です。ぜんぜんエリートじゃない。地元の不動産業やってる家の次男坊です。彼はいつも優秀な兄(フレッド・トランプ・ジュニア)に比較されて、鬱屈をため込んでいたんですね。彼の最初の「敵」は兄だったといえる。ただ幸運にもその兄が家業を継がず、飛行機のパイロットになるんです。この巡り合わせでドナルド青年がチャンスを得た。


 だけど彼が引き継ぐ直前、不動産会社は破産寸前でした。黒人の入居を拒んだことで政府に訴えられていたんですね。そのときドナルド青年を窮地から救う運命的な出会いがありました。政財界のエスタブリッシュメントが集まる高級クラブで悪徳弁護士、ロイ・コーンと知り合うんです。このロイ・コーンとの出会いのくだりが映画『アプレンティス』の白眉です。日焼けした筋肉質な身体。瀟洒(しょうしゃ)なオーダーメイドスーツ。ジェレミー・ストロングという俳優さんが演じているんですが、むちゃくちゃ説得力がある。ドナルド青年を見つめる目つきのエグさったらないですよ。この人物が映画の惹句「このモンスターには、創造主がいた――。」の「創造主」です。まぁ、本来の意味の「創造主」は神様のことですけど、まぁ、それくらいドナルド・トランプというキャラクターを創り出すことに決定的に関わった人ってことですね。ロイ・コーンはまさにドナルド青年の「導師」「教育者」であり、「守護天使」でした。



『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』© 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.


 ちなみに「アプレンティス」っていうのは日本語にすると「見習い」という意味です。これはダブルミーニングになってて、00年代にNBCで放映されたドナルド・トランプがホストのリアリティーショーのタイトルが『アプレンティス』というタイトルだったんです(日本版はWOWOWで放送)。企業の本採用を目指して、番組参加者が様々な課題に取り組み、毎週1名の脱落者にトランプが「お前はクビだ!(ユー・アー・ファイアド!)」と叫ぶのが決まり文句でした。だもんで、最初に大統領選に名乗りを上げたときは僕なんか「目立ちたがり屋の不動産業経営&アホ司会者」が大統領選出馬?くらいのイメージです。まさか当選するなんて思いも寄りません。まぁ、日本の番組でいったら『マネーの虎』みたいな感じかな。映画『アプレンティス』はそのリアリティーショーのタイトルをまんまいただいて、かつ悪徳弁護士ロイ・コーンの「見習い」であったドナルド青年をシンボリックに表現したわけです。とてもうまいタイトルですね。


 では、ロイ・コーンが叩き込んだ勝利の哲学(「ロイ・コーンの勝利への3つのルール」)とは何か?  これはネタバレになっちゃうかなと思ってたら、公開日の『Nスタ』(TBSテレビ)でガッツリ紹介してたから僕も書くことにします。このシークエンスの核心はロイ・コーンの教えそのものじゃなく、「見習い」ドナルド青年の変化のほうです。教えを受けているときのドナルド青年の表情にご注目ください。


ルール1 攻撃、攻撃、攻撃

ルール2 非を絶対に認めるな

ルール3 勝利を主張し続けろ


 悪徳弁護士ロイ・コーンはこのたった3つのシンプルな教えを伝授します。どうでしょう、これぞ「我々の知るドナルド・トランプ」そのものじゃないですか。移民やリベラル、フェミニストなど「敵」を設定し、徹底的に攻撃する。都合の悪いことはフェイクニュースだと言いつのる。2020年大統領選に負けたときも「不正が行われた」と主張、支持者たちの連邦議会襲撃を引き起こす。ロイ・コーンこそ「ドナルド・トランプをドナルド・トランプにした」人物なのです。


※ちなみにドナルド・トランプの祖父母も妻も敵視しているはずの「移民」です。


 僕はジム・キャリーの映画『マスク』(94)を連想しますね。最初、それは「見習い」にとって見様見真似、ホントの弱い自分を隠す仮面のようなものだった。それが続けてるうちに顔から剥がれなくなっていく。今、世界を混乱に陥れている震源と呼ぶべき男が、実は「哀れな坊や」だったとは。これから4年間のトランプ時代を生き抜くためにも必見の映画じゃないでしょうか。



文:えのきどいちろう

1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido




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『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中

配給:キノフィルムズ

© 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.

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