これまでの韓国映画と違うアプローチ
Q:映画を彩るビジュアルや街の描きかたなど、韓国映画における新たな方向性を切り拓いている印象がありました。
イ:そこまで大それたことは考えていませんが、表現については常にスタッフに伝えていたことがありました。今回の作品は、これまでの韓国映画で描かれてきた、男たちがたくさん出てきて血しぶきが飛ぶようなノワールとは全く違いますし、パステルトーンで描かれるようなメロドラマでもない。それらのビジュアルとは一線を画す必要もあり、今回はビビッドな色彩にしたかった。そして今まで見たことのない新しいものを表現しようと考えていました。これまでの韓国映画とは違うアプローチのおかげで、新しい雰囲気のものになったのかなと思います。
Q:十数年間を描くことで、韓国におけるゲイカルチャーの境遇と変遷も分かります。気をつけた点はありましたか。
イ:ここは最も注意を払った部分でした。私はその当事者ではありませんが、私が愛する友人の中にはクィアの方もいます。その友人がこの映画をどのように受け止めるのか、いろいろと考えましたし悩んだ部分も大きかった。私にとって難しい宿題のようなものでしたが、その友人たちの助けも借りつつ、良いものにしたいという思いで作っていきました。この映画を作ることができたのは、ある意味、その友人たちのおかげでもあります。
『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』ⓒ 2024 PLUS M ENTERTAINMENT AND SHOWBOX CORP. ALL RIGHTS RESERVED.
Q:影響を受けた好きな映画や監督を教えてください。
イ:映画を見るのが大好きで本当にたくさん観ているので、この質問は難しいですね(笑)。私が映画を始めた頃はデヴィッド・リンチが大好きでした。ただ、今回の映画に関しては彼から影響を受けたわけではなく、90〜00年代のハリウッドのロマンチックコメディからの影響が大きいと思います。
昔の映画を観ることも大好きでして、鈴木清順監督の『東京流れ者』(66)をもう一度観たくてDVDを探しています。観たのはもう十数年前なのですが、色使いやカット割が本当にすごくて、衝撃を受けました。残念ながら韓国ではなかなか見つからないんです。
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監督:イ・オニ
1976年生まれ。2003年にイム・スジョン、キム・レウォン主演の『アメノナカノ青空』で監督デビューを果たす。その後、子供とともに姿を消したベビーシッターの行方を追うミステリー映画『女は冷たい嘘をつく』(16)が、「第37回韓国映画批評家協会賞」の「映画批評10選」に選出。さらに、クォン・サンウ主演の『探偵なふたり:リターンズ』(18)では、未解決事件の謎に挑む3人の推理をコミカルに描き、「第19回女性映画人賞」の監督賞を受賞した。本作では、「2024年今年の女性映画人賞」で監督賞を受賞。多彩なジャンルで卓越した演出力を発揮する、韓国映画界の注目の監督の一人である。フィルモグラフィー:『探偵なふたり:リターンズ』(18)監督、脚色『女は冷たい嘘をつく』(16)監督、脚本、脚色『肩ごしの恋人』(07)監督『アメノナカノ青空』(03)監督
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』
全国公開中
配給:日活 / KDDI
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