©2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
『劇場版「緊急取調室 THE FINAL」』、過去最大の事件【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.94】
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ご存知「キントリ」の劇場版ファイナルです。2014年から5シーズン続いたテレ朝の人気警察ドラマがここに完結します。テレビでご覧になってたファンはもちろん、劇場版で初めて「キントリ」に接するという方も十分楽しめる作りになっています。僕はそんなに熱心なドラマ視聴者じゃなかったんですが、約2時間の上映時間、「キントリ」の世界観に没入ですよ。あっという間にエンディングになった気がした。
やっぱり10年以上続いたシリーズなので「キャストが物語を生きている」感じがします。天海祐希さんは10年以上、「真壁有希子」の人生を生きたわけだし、田中哲司さんは「梶山勝利」を、塚地武雅さんは「玉垣松夫」を生きたわけです。役が手の内に入ってる。呼吸がピッタリ合っている。それは演じてる側もそうでしょうけど、見てるこちら側のしっくり感もありますね。観客のなかで天海祐希さんは5シーズンにわたって「真壁有希子」を生きている。時間をかけて出来上がるものってあると思うんですよ。だもんで『緊急取調室 THE FINAL』はすべての役が「当たり役」「ハマリ役」に思えます。この役はこの人じゃなきゃダメっていう感じ、僕はインド映画の「マサラ上映」みたいに、「キントリ」の応援上映があっていいと思います。「真壁有希子」の決め台詞「面白くなってきたじゃない」はキタ―(゚∀゚)―!!でしょ。「磐城和久」副総監(大倉孝二)の「いやいやいやいや‥」はみんなでご唱和したいでしょ。
劇中の緊急取調室というのは、警察に設けられた架空のハイテク取調室です。容疑者に対しては「取り調べの可視化を目的として」と表向きのエクスキューズが用意されてるけれど、その供述は映像化され、特別編成チーム「警視庁捜査一課 緊急事案対応取調班(通称キントリ)」によって分析され、真相解明に役立てられる。「キントリ」のメンバーは個性派揃いで、それぞれ「落とし」の得意技を持っている。主人公の「真壁有希子」は「少々強引なやり方で問題を起こした交渉人」ですね。意地っ張りで、猪突猛進のタイプ。彼女が加わったことで「キントリ」はメインエンジン点火です。どんな難題にもひるまず突進していく。

『劇場版「緊急取調室 THE FINAL」』©2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
ただ『緊急取調室 THE FINAL』の事案は過去最大の難物です。予告編にでかでかと出てますから、ここはネタバレにはならないでしょう。「重要参考人 総理大臣」なんです。何とまぁ、総理大臣を取り調べるらしい。そもそもそんなこと可能なんでしょうか。パッと思い浮かぶのは「国会議員の不逮捕特権」みたいなことです。ただでさえ議員の任期中、警察はものすごく手出ししにくい(政治的な意図を疑われる)。しかも、単なる国会議員じゃなく総理です。これはもう、デリケートなんてもんじゃないでしょう。任意の捜査協力なんて簡単に突っぱねられるだろうし、下手したら警察トップの首が飛びます。はぐれ軍団とはいえ組織内の存在である「キントリ」に一国の総理大臣は落とせるのか。
取調室の物語である以上、派手なアクションシーンを見せ場にするわけにいきません。基本、会話劇なんです。「キントリ」チームと容疑者の丁々発止。これ、テレビドラマのサイズならともかく、映画の大スクリーンでもたせるには芝居の力が必要です。たたみかけるテンポ感も緩急もしっかり構成しないと成り立たない。だから『緊急取調室 THE FINAL』は芝居の映画なんです。これ、俳優さんも監督さんもやってて楽しかったんじゃないかな。4シーズン、テレビドラマやっても映画にするのはまた格別だったでしょう。
裏話をすると本作は主要キャストの不祥事によって、一度ペンディングになっている。本当ならとっくに公開されているはずでした。だいぶ撮り直しが必要だったと聞きます。12/22、公開カウントダウンイベントで天海祐希さんは「平坦な道のりではなかったのですが、ようやく皆さんに見ていただけることができます」と語った。エンタメ大作を背負って立つ「座長」の台詞だなぁと思いますね。もちろん単に不祥事だけでなく、「キントリ」チームの得難い一人だった大杉蓮さんのご逝去ということも含んでいる気がします。
人気テレビドラマの「特別編」や「FINAL」を映画にする流れは邦画のトレンドとして定着しましたね。『ラストマイル』(24)のように物語の本筋とドラマ世界が繋がってるやり方もある。本作は「FINAL」と銘打ってますけど、これで終わるのはもったいないと思うんですよね。何かの事件を犯人視点で描いて、終盤「キントリ」に繋がってくるストーリーとか、まだ色んな可能性あると思うんですよ。
文:えのきどいちろう
1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido
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『劇場版「緊急取調室 THE FINAL」』
全国公開中
配給:東宝
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