©大谷アキラ・夏原武・水野光博/小学館 ©2026 映画『正直不動産』製作委員会
映画『正直不動産』、風に理由はいらない【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.104】
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『正直不動産』には恩義を感じてるんですよ。今年、家族が入院・手術っていうことになって、突然のことで必要なものを揃えたりバタバタして、その一方で家のなかは急にひっそりしてしまった。で、何か前向きになれそうなドラマないかなと思ったらAmazonプライムに『正直不動産』があった。NHKドラマで話題になったのは知ってるけど、オンタイムでは見逃していた。原作はビッグコミックの人気漫画ですよね。で、朝起きたとき、フルグラに豆乳注いで1話見る、病院に様子見に行って、帰りにお弁当買ってきてまた1話見る、原稿を書き終えて、夜寝る前に更に1話見るって感じで、ずっと『正直不動産』と生活したんです。おかげ様で凹まずにいられた。
本当に前向きになれる、ポジティブな力を持ったドラマなんです。主役の山下智久さんがとてもいい。それから後輩の新入社員を演じる福原遥さんがハマり役です。物語としては福原さん演じる月下咲良が狂言回しになって、「何も知らない新人の目」から見た不動産業界のあれこれを視聴者に開示していきます。基本コミカルタッチのドラマなんですが、毎回、不動産取引に関わるウンチクがちりばめられていて、そういう意味でも勉強になります。
で、山下智久さん。彼が演じる永瀬財地が絶妙なんです。元々は「ライアー永瀬」の異名をとる舌先三寸の不動産営業マンでした。顧客を嘘で丸め込み、常に登坂不動産のトップセールスを張っていた。また天性のイケメンぶりを発揮して数々の美女を陥落させていたようです。まぁ、かなり戯画化された「勝ち組」営業マンですね。もちろん山下智久さんだからそのカッコよすぎる「勝ち組」ライフが様になります。
ただ地鎮祭の準備のためある更地を訪れた際、邪魔っけな祠(ほこら)が目について、つい持っていたスコップで破壊してしまうんですね。「勝ち組」営業マン、永瀬財地はその祠の祟りによって嘘がつけない体質になってしまう。以前のように顧客を嘘で丸め込もうとすると、どこからか風が吹いてきて、その風を受けた途端、本当のことしか言えなくなるんです。だからこれまでの舌先三寸のセールストークが使えなくなり、永瀬は窮地に陥る。

映画『正直不動産』©大谷アキラ・夏原武・水野光博/小学館 ©2026 映画『正直不動産』製作委員会
僕はこの風が吹くところがむちゃくちゃ好きなんですよ。祠の謂(いわ)れも劇中、大して説明しない。何で祠の祟りが嘘を許さないことになってるのか理由も明かされない。とにかく永瀬財地の顔のあたりに風が吹きつけてくるんです。ドラマ上は山下智久さんがいちいち風に吹きつけられる。その何の説明もないところが好きなんです。何の説明もなく、山下さんがふわぁ~とか、びゅう~とか、風を受け続ける。こういうのって説明なんかなくていいでしょ。但し、山下さんのファンのために、風を受けたとき髪の毛がファサ~となったり、表情が少しゆがんだりするのがカッコよくなくてはならない。基本ナンセンスな設定だけど、そこにカッコよさがないとダメでしょう。
かくて物語の本筋は「得意技(嘘)を封じられた永瀬」と「不動産の仕事に夢を抱き飛び込んできた月下」が奮闘努力の末、カスタマーファーストの「正直不動産」を成立させていく、再生とチャレンジの物語ということになります。欲望渦巻く不動産の世界に「正直」の旗を掲げ、戦いを挑んでゆく。だからとんでもなく前向き、かつポジティブなドラマなのです。
映画『正直不動産』はキャスティングや世界観はNHKドラマをそのまま踏襲していますね。といって、ドラマを見てないと話についていけないわけじゃない。そこは映画で初めて物語に触れる観客も想定して、わかりやすく作ってあります。今回は謎の大規模開発事業がテーマですが、悪役は結局、お金のために動くんですね。永瀬と月下はその土地に住んでいる人の思いに寄り添おうとする。おっと、デティールはそこまでにします。せっかく何の説明もなく風がびゅう~と吹くのがいいと言ったのに、僕が説明過剰になってはいけません。
とにかく申し上げたいことは映画『正直不動産』が、お年寄りからお子さんまで家族みんなで楽しめる痛快娯楽作だということです。キャスティングもむちゃくちゃ豪華です。ていうか、なかなかこんな主役級をぜいたくに使った作品もない。どうか日本じゅうの映画館に「正直」の風が吹き荒れますように。そして観客の皆さんが前向きな気分になれますように。
文:えのきどいちろう
1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido
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配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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