© 2024 ONOMATOPEE FILMS BV, WARBOYS FILMS S.A.S., ZAP-O-MATIK, BALDR FILM,RTBF, VRT, JOHAN GRIMONPREZ
『叛逆のサウンドトラック』、これは最高【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.110】
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スペインの優勝で終わったワールドカップ2026ですが、K組にコンゴ民主共和国(DRコンゴ)が出場しました。グループリーグでは強豪ポルトガルと引き分け、決勝トーナメントでイングランドに2対1と惜敗し、日本代表と同じベスト32で大会を去ったんですけど、中継をご覧になった方はスタンドに屹立した「パトリス・ルムンバの銅像(ルムンバ・ベア)」を覚えておいでかもしれません。彼はDRコンゴの名物サポーター(ミシェル・ンクカ・ムボラディンガさん)で、台座の上に立って右腕を上げた格好のまま、試合開始から終了まで微動だにせず、銅像に成り切るんですね。この「生ける銅像」の主、コンゴ建国の立役者(当時は「コンゴ共和国」)であり、初代首相でもあったパトリス・ルムンバが本作の重要なキーパーソンです。
『叛逆のサウンドトラック』(24)は火の出るような激しい映画です。全編エネルギーに満ちている。トップシーンはこうです。1961年2月、歌手のアビー・リンカーンとドラマー、マックス・ローチはコンゴ初代首相、パトリス・ルムンバ殺害に抗議するため、国連安全保障理事会に殴り込みをかけます。ルムンバは拷問を受け、惨殺されたんですね。おそらくはベルギーとアメリカCIAの関与によって。そのいきさつはラウル・ペック監督の映画『ルムンバの叫び』(00)に詳しいんですが、ウラン鉱脈などの利権を手放したくない欧米側にとって、指導者ルムンバが邪魔だったんだと思います。
アビー・リンカーンとマックス・ローチの国連安保理殴り込みは強烈です。今年のフジロックでは(マッシヴ・アタックやアジアン・カンフー・ジェネレーションなどのパフォーマンスに対して)音楽と政治を切り分けるべきか否かの論争が巻き起こったわけですが、65年前の音楽家はバッチバチに「政治的」ですね。ていうか、国際政治と自らのアイデンティティとやってる音楽とが不可分に結びついている。またそれがピーンと糸を張ってギリギリ引き合ってるような緊張関係にあるから、そこから迸(ほとばし)るエネルギーがものすごいです。

『叛逆のサウンドトラック』© 2024 ONOMATOPEE FILMS BV, WARBOYS FILMS S.A.S., ZAP-O-MATIK, BALDR FILM,RTBF, VRT, JOHAN GRIMONPREZ
本当にすべてが結びついているんですよ。1960年、アフリカの新興国が16か国、次々に独立し国連に加盟したことで、国際政治のバランスが変わります。欧州の旧宗主国は少数派に転落し、国連内の勢力を維持できなくなる。コンゴ動乱はその文脈で起こりました。欧州の旧宗主国(と結託したアメリカ)による揺り戻しです。コンゴ初代首相、民族指導者パトリス・ルムンバの惨殺は気運高まりつつあった「アフリカ合衆国」の未来を閉ざしました。ソ連のフルシチョフは国連総会で靴を叩きつけ、国連のコンゴ介入を非難します。
まぁ、だけどフルシチョフが靴を叩きつけるのは(東西冷戦の綱引きのひとコマとして?)まだわからなくもないじゃないですか。アビー・リンカーンとマックス・ローチの殴り込みはすごすぎる。ジャズがどれだけダイレクトに世界と接続されていたかを物語るエピソードですね。
アメリカは当時、ルイ・アームストロング、ニーナ・シモン、デューク・エリントン、ディジー・ガレスピーらをアフリカ親善大使として派遣する「ジャズ外交」を展開していたそうです。当然、各地でコンサートをやった。これはCIAによる「揺り戻しクーデター」画策と並行して行われたんですね。これも逆の意味で音楽が政治と無関係ではいられないという証左です。ジャズは「ソ連=共産主義」に対する文化的な防波堤であることを期待された。そして「アメリカの自由」の優位性を誇示するのに用いられた。音楽は政治利用され得るのです。
そしてそれに抗い、叛逆の旗を高く掲げるのもまた音楽の力なのです。それをこの映画はガチで見せます。映像詩、音楽ドキュメンタリーであることが第一義だと思いますが、同時に爆発的なアジテーションにもなっている。60年代は公民権運動などの関係で、フォークソングが抵抗する音楽として知られていますが、ジャズがこんなにエッジに立っていたのは感じ入りますね。僕は「スムーズジャズ」という、渋い大人の夜のムードを演出するような、クソつまんないジャンルが大嫌いです。バリバリの、エネルギーに満ちたジャズってそんなもんじゃないですよね。それは信ずるに足るものですよね。心ある観客にぜひ届いてほしい。あとセロニアス・モンクが出てきたの嬉しかったなー。
文:えのきどいちろう
1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido
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『叛逆のサウンドトラック』
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、
UPLINK吉祥寺 他にて全国順次公開中
配給:オンリー・ハーツ
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