ベトナムの苛烈な戦場を生き抜き、重いPTSD(戦争後遺症)を抱えることになった元米兵、アレン・ネルソン。絶望の淵にいた彼を救ったのは、精神科医ダニエルズによる「なぜ人を殺したのか?」という執拗なまでの問いかけだったーー。塚本晋也監督の最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』では、戦争体験の生々しい恐怖と一人の人間の魂の救済が、極限の没入感とともにスクリーンに焼き付けられている。名優ジェフリー・ラッシュを迎えて英語圏での撮影に挑んだ本作は、国境を越え、不穏な空気が漂う現代に「戦争」という狂気を容赦なく突きつける。
塚本監督はいかにして『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』を作り上げたのか。話を伺った。
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』あらすじ
貧困や差別から抜け出すために18歳で入隊したアフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソン。ベトナムという苛烈な戦地で学んだことはただひとつ、いかに多くの人を殺せるか。その対価として得たのは、ごくわずかな賃金とPTSD(戦争後遺症)だけだった。23歳で家を追い出され、ホームレスとなったアレンをこの世につなぎ止めたのは、退役軍人病院でカウンセリングを行っていたダニエルズ医師の存在だった。
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戦争体験を生々しく描いた原作の衝撃
Q:原作にはどのように出合われたのでしょうか。
塚本:10年以上前に『野火』(15)という映画を作ったのですが、その資料集めのときです。戦争に関係する本を集めていた中で、戦争体験をここまで生々しく赤裸々に描いているものは他に見たことがなかった。最初に読んだ時の衝撃はすごかったですね。
Q:その時点で映画化は考えましたか。
塚本:「これが映画になったらすごいだろうな」とは思いましたが、到底無理だろうと。でも『野火』も到底無理だと思えるくらい大きな映画でしたが、スタッフと一緒に知恵を振り絞って低予算映画として完成させました。しかし、さすがにこの作品はそういう頓知だけでは実現できない。そう思いながらも、手はすでにプロットを書き始めていたり、人に会う機会があれば実現の可能性を聞いてみたりと、少しずつ動き始めていたような気がします。

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA
Q:主人公が日本人ではなく、海外での撮影も多い。実現のハードルはかなり高かったかと思いますが、それでもこの原作の映画化にこぎ着けました。
塚本:戦争で行くところは決してカッコいい活躍の舞台ではなく、非常に恐ろしい場所なのだと。それを映画で描き、人々に観てもらい、知ってもらうことが、今の世の中に必要だと強く思いました。だんだんと戦争に近づいていくような気配が日本の中にもあり、「戦争できる国」になろうとしている感覚すらあります。「それで本当にいいんですか?」と、観客の皆さんに感じてもらいたかったんです。
Q:これまでの塚本作品も海外に受け入れられてきましたが、今回は主要言語が英語という意味で、より世界に向けて作られているように感じます。逆に日本においてどのように受け止められるか、意識された部分はありましたか。
塚本:日本に向けたという意味では、どちらかというと『野火』の時がそうでした。あれは、日本の状況を心配して作った作品です。今は、世界全体の状況が非常に不安定で、そこに日本も巻き込まれていくような感覚がある。その意味で、まずは日本に向けて作ったのですが、この映画自体は日本だけでなく、なるべく世界の色々な人に観てもらいたい。アレン・ネルソンさんはアメリカ人ですが、それは彼のメッセージが大事だと思ったから描いたのであって、アメリカ人だけでなく、日本人もドイツ人もイタリア人も、戦争に行けばどの国の人も同じになるということを知ってもらいたいですね。