主人公と同化して戦争を体験する
Q:なぜアレン・ネルソンがPTSDを患ってしまったのか、その理由が容赦なく詳細に描かれます。この強烈な鑑賞体験に込めた思いを教えてください。
塚本:観客の皆さんには、アレンと完全に同化してもらいたいと思いました。映画を客観的に観るのではなく、完全に同化して戦場を体験してもらう。そして最後、劇場から出た時に「ああ、(これは映画で)現実じゃなかったんだ」と心からホッとしてもらいたい。劇場で嫌というほど戦争を体験してもらい、「戦争は恐ろしい、嫌だ」と肌感覚で感じてもらいたかったのです。
Q:実際のネルソンさんは日本国憲法第9条に感銘を受けて、日本での講演も積極的に行われていたそうですが、そのエピソードを映画に盛り込むことは考えられましたか。
塚本:「9条を守る」というのは当たり前のことであり、本来は特別な政治的メッセージではないはずです。しかし、今の状況下では「9条を守る」というと、特殊な考えのように受け取る人もいます。お客さんを限定したくないという思いもありますし、映画は生ものなので、そのときの状況を見ながらも政治的メッセージは映画に入れないと決めています。そのため、そのエピソードを入れるのはやめようと、割と最初から決めていました。

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA
塚本:実は最初の脚本では、1995年の沖縄での米兵による少女暴行事件をきっかけに、アレンさんが日本に来て講演活動を始める様子を描いていました。ただ、平和活動をするという展開に、映画として少し違和感を覚え始めたんです。あくまでこれはアレンさん個人の話であり、語ることは戦争の恐ろしさを伝えると同時に、彼自身の治癒(PTSDを減らすこと)でもあります。そのため、一人の人間の苦悩を描くことに徹しようと考え、シンプル化しました。観客の皆さんにも「感じてもらう」ことだけが一番大事かなと。
Q:この映画に携わった方々や観る人の多くは、戦争に対して危機感を抱いていると思います。一方で、日本人の多くは戦争への関心が薄いというギャップに怖さも感じます。
塚本:実を言うと、私自身も若い頃は関心が薄い人間でした。子どもの頃から「戦争は嫌なものだ」と感じてはいましたが、新聞もあまり読まず父親に怒られ、割とボーッと生きていました(笑)。だからこそ、関心がない人たちの気分もよくわかりますし、むしろ彼らの立場に立って考えているところがあります。そういった方々が「すっげえ怖い映画があるみたいだよ」と、まるでお化け屋敷に行くような感覚で観に来てくれて、帰る時に何か大事なものを感じてくれたらという期待があります。関心がある方はもちろん、あまり関心のない方や、「必要とあらば戦争もしなければいけない」と考えているような人にも、ぜひ観てもらいたいですね。