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『ドラマなふたり』、運命的な出会い【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.111】

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『ドラマなふたり』、運命的な出会い【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.111】

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 これ、面白かったなぁ。監督・脚本はクリストファー・ボルグリってノルウェーの新鋭です。『シック・オブ・マイセルフ』(22)っていう承認欲求に取り憑かれた女性を描いた作品で一躍注目され、アメリカで撮ることになってこれで2作目ですね。これ当たりますよ。今、旬もいいとこのスター、ゼンデイヤとロバート・パティンソンをキャスティングしましたからね。そりゃ、勢いあります。この勢いっていうのは名匠や名優が揃っても何となく出て来ないんだ。才能と才能が出会って火花散らしてるときに伝わってくる。ゼンデイヤとロバート・パティンソン素晴らしい芝居してます。そしてクリストファー・ボルグリ監督が化学変化を生じさせた。


 物語の設定はものすごくオーソドックスなんですよ。ゼンデイヤ演じる文藝編集者のエマとロバート・パティンソン演じる美術館学芸員のチャーリーは運命的な出会いで結ばれたカップルなんですね。結婚式を一週間後に控え、目下、慌ただしさのピークです。式のスピーチ文を考えなきゃならないし、会場演出のあれこれやDJの手配も気になる。衣装合わせや写真撮影もありますね。これは経験のある方ならすぐピンと来ると思うけど、どんなアツアツのカップルでもイライラがつのってケンカになったりします。決めなきゃならないことが山ほどあって、普段のテンションではいられないんです。


 ひとつ気になることが発生します。当日、DJとして雇うことにしてたポーリンを街角で見かける。彼女はどうもドラッグをやってた感じに見えた。確証はありません。だけど、新婦のエマが絶対そうだったと言い張り、そんな人に結婚式に関わってほしくないときっぱり拒絶する。チャーリーはせっかくお願いしたのに、と思うが、エマに押し切られ別のDJを探す。思えばここが入口なんです。この映画はたぶんコードに関する映画なんだと思います。コード、社会的規範。文化が抱える暗黙のルール。何を拒絶し、何を許容するかの物差し。



『ドラマなふたり』© 2026 Dramatic Movie Rights LLC. All Rights Reserved.


 ネタバレになるので詳細は省きますが、エマとチャーリーは仲良しカップルのレイチェルとマイクを誘って、式のメニューやお酒をチェックするためレストランに出向きます。いつしか座がくだけて、それぞれ自身がこれまでにやった「最悪の行ない」を暴露し合おうということになる。まぁ、たわいもない酒席の戯れ言ですよね。で、若気の至りのような「最悪」を皆、その場で告白していく。まぁまぁ、酷いことを皆、してるんですよ。ああ、マジかー。ウソだろー。そんな流れになる。で、エマが自身の「最悪」を打ち明けるターンになる。


 打ち明け話ってそういうところがありますけど、この話が受け入れられるだろうかと急に不安になったりしますね。相手が信用できなければ、そもそも内心の秘密を打ち明けたりできないですね。エマは婚約者や親友を信じて「最悪」を打ち明けた。ところがドン引きどころか、皆から拒絶反応が返ってくる。レイチェルなんか大激怒です。どうやらエマはコードを逸脱してしまった。そのコードについて考えるのが『ドラマなふたり』の滋味というべきです。すごく上手い設定、すごく上手い脚本だと思います。むちゃくちゃ微妙なラインを突いてくる。


 大学時代、社会学の授業でピエール・ブルデューの古典『結婚戦略――家族と階級の再生産』を学びました。そこで面白かったのは僕ら自由に恋愛したり結婚したりしているようでいて、実際にはそんなことないんだという考え方でした。「結婚は階級の再生産」だっていうんです。まぁ、お見合い結婚は両家のつりあいを見たりするから、良家は良家どうしの縁組みになりがちですね。じゃ、恋愛結婚はどうかっていうと、これも自由意志で伴侶を選んでいるように見えて、生活感覚とか趣味とか、宗教観とか、コードを共有してるどうしが「気が合う」「一緒にいて落ち着く」ってことになってる場合が多い。まぁ、家柄を超えた大恋愛ってこともあるだろうけど、それは例外だっていうんですね。日本は宗教や人種のコードが比較的少ないとも言えるんだけど、それでも「気が合う=コードがつながっていて説明がいらない」って重要なファクターなんだと。


 エマの「最悪」は実は夢想し、計画しただけで実行には移されてないんです。チャーリーらの「最悪」は実行し、他人に迷惑をかけている。それなのにエマの「最悪」だけが拒絶される。どうもそこには「拒絶される最悪」と「許容される最悪」があるようだ。僕は現代のアメリカ人じゃないからそこは想像するだけです。4人のなかでエマだけが黒人女性なんですよ。それが何かコードからの逸脱を生むのか。


 ただこの映画はブラックジョークのアングルを持った恋愛コメディです。コードの逸脱を乗り越える愛情、知恵も示してくれる。何たって二人は運命の出会いで結ばれたカップルなんですから。



文:えのきどいちろう

1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido



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『ドラマなふたり』

TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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