豚の宿命に勝つベイブと農場世界
※物語の結末に触れています。
ベイブは羊から「礼儀正しくすれば、羊は言うことを聞いてくれる」と教えられる。当たり前のことだけれど、そんな当たり前も羊たちには適用されてこなかったのだ。こうしてベイブは、相手に敬意を示してお願いをするという彼なりのやり方を見つけるのだった。
牧羊犬コンテストの会場で見知らぬ羊たちを前に戸惑うベイブのため、彼を認めつつあったレックスが農場に走って、それまで見下してきた羊たちに助けを求める。ようやく羊たちに敬意を表してお願いをしたレックスは、羊の間に伝わる合言葉を聞き出すが、牧羊犬が羊たちに頭を下げるのは、この物語の山場だ。
合言葉と礼儀正しい態度でもって羊たちの信頼を得たベイブは、難なく競技をクリアする。豚の出場に眉をひそめていた審査員や観客たちも、ベイブの完璧な仕事ぶりに胸を打たれて賞賛を送る。ベイブは優勝し牧羊豚として認められ、食べられたり罵り言葉として使われる豚の宿命に勝ったのだ。
様々な動物たちが暮らす農場は、しばしば箱庭のように描かれる。ジョージ・オーウェルの小説「動物農場」は、人間たちに酷使されてきた動物たちが革命を起こすも、リーダーだった豚のナポレオンが独裁者になってしまうという寓話だが、同じ豚が中心でも『ベイブ』はまた別の寓意性を持った農場物語だ。豚のみならず、種類ごとにイメージやレッテルを貼られた動物たち。偏見を持たれ、最初から可能性や運命を決めつけられ、選択肢が制限されたりするのは人間の世界にもあることだ。もちろん「動物農場」での豚のイメージも、ベイブが挑んだもののひとつと言えるだろう。
子どもの頃親しんだ作品は、大人になってからも大切なことを教えてくれるようだ。
イラスト・文: 川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。