撮影していない時間の方が多かった
Q:映画の中では、まさに今自殺しようかと思い悩む人も出てきて、その様子もカメラに収められています。実際の現場の様子はどうだったのでしょうか。
加瀬澤:現地にはスタッフは同行せず、僕一人で行っていました。自殺を思いとどまって保護された方々が生活しているアパートに一緒に泊めてもらい、そこで生活しながら藤藪さんに同行していました。藤藪さんとは一緒にいたので、彼と同じく常にスタンバイ状態にはあり、(映画でも出てくる)保護活動にも同行して撮影させてもらいました。
ただやはり、ずっといると精神的には結構つらいものがあったので、10日間ほど現地にいては一旦東京に帰ってくるといったサイクルで、取材を進めていきました。
Q:実際に一緒に暮らしていた人たちは、自殺を行動に移す直前だった方々だったわけですが、そのみなさんにインタビューするときには、どういう距離感で接していったのでしょうか。
加瀬澤:普通ですね。
Q:普通。
加瀬澤:彼らとは普通に世間話をしていました。カメラは持たず、普通に一緒に生活して、彼らが働いているお弁当屋さんを手伝ったりもしました。彼らに対して極端に気を遣うのは変だし、失礼だと思っていましたから。自殺ということがテーマではありますが、もちろん急に核心に迫ったりするのではなく、ちゃんと関係性を作ってお互いにゆっくりと近づいていく中で、お話ししながら撮っていくっていうような感じでした。
Q:そうなんですね。四六時中ずっとカメラを回していたかと思いました。
加瀬澤:カメラを回していないときの方が多いですね。むしろ、お弁当を作っている時間の方が長かったかもしれないです。
Q:トータルの日数的には、どれぐらい行かれたのでしょうか。
加瀬澤:ひと月に10日間くらい行くサイクルを7~8回繰り返していたので、多少間も空いたりしたのですが、多分70~80日くらいですね。トータルでは1年弱かかっています。
Q:スタッフ無しで、一人きりで70~80日。
加瀬澤:はい。カメラマンを連れて行くという話もあったのですが、カメラマンを連れて行くと、やっぱり「撮ります」っていう感じになってしまうんです。もちろんそれがいいケースもあるし、通常はそうやっているのですが、今回はそういうことではなく、彼ら自身の言葉を自分たちから出してもらえるような環境をつくりたかったんです。撮るというよりも、僕は聞き役に徹したかったんですね。
Q:あまりカメラを回していなかったとはいえ、1年弱あると素材が膨大になると思いますが、編集作業などは都度行うものなのでしょうか。
加瀬澤:取材はもっと長いケースもありますが、今回も割と長かった方ですね。編集に関しては、基本的には撮影が全て終わってから行いました。確かに素材は多いので、まずはその整理から始めて、プロデューサーとケンカしながら編集してたと思います(笑)。
Q:ケンカですか?
加瀬澤:僕の佐藤真さんに対する思いもあり、今回のドキュメンタリーは、テレビ番組ではなく映画をつくろうっていう意識がすごく強かったんです。そういう意味で、内容的にちょっと分かりにくかったりする部分とか、なかなか伝わりにくい部分もありました。一方で、今回のプロデューサーはテレビのドキュメンタリーの世界にずっといる人なので、そういう意味での差は出てくるんですよね。
Q:なるほど。確かにテレビって分かりやすさ優先のイメージがありますね。
加瀬澤:もちろん全てのテレビ番組がそうではないんです。そうじゃないように作ろうとしている人もたくさんいます。ただ、何となくテレビ全体としては、イメージとしてテロップが入っていて、老若男女に分かりやすく作られている感じがする。なので、どうしてもそういうイメージになってしまいますよね。