ドキュメンタリーの面白さ
Q:ドキュメンタリーをつくる面白さって、何でしょう。
加瀬澤:ドキュメンタリーをつくっていると、ある種自分の予想を現実が越えてくる時があるんです。そういう瞬間はやっぱり面白いし、すごく醍醐味だなと思います。
ドキュメンタリーって、現実にある対象と向き合いながら考えて思考していくプロセスなので、元々つくりたかったイメージがどんどん上塗りされて、新たな何かをつくっていくみたいな感じになるんです。そのことがまた自分に返ってきますし、そんな相互作用みたいなものがある中で、何かをつくっていくことがすごく楽しいですね。
考えて悩むプロセスが人生にあるように、そのプロセスそのものをドキュメンタリーとして提示したいっていう欲望がありまして。それはすごく面白い作業だなと思っています。
Q:撮影しても「何も起こらない」ことへの、怖さはありますか。
加瀬澤:それは、ないですね。その時はそれを撮ればいいと思っているからです。例えば何か起こることを期待しているとしたら、その期待している自分はなんだろうとか、そんなことが問いにつながっていくわけです。そういうことは自分に返ってくるから、その何も起きないっていう状況を見つめながら考えていくというプロセス自体が、ドキュメンタリーになっていく。何も起きないことが面白いんです。それはそれで。
Q:佐藤真さん以外で、参考にしている監督や作品はありますか?
加瀬澤:今回、こういう感じにしたいなと思ったのは、中国のドキュメンタリー作家ワン・ビンの『鉄西区』(03)です。鉄西区という場所が中国にあるのですが、そこを長期にわたって見つめたドキュメンタリーです。その場所の近代化が進み、工場がどんどん建ち、町が変わり人が変わりという状況をじっと見つめているんです。三部作になっているのですが、全部で9時間くらいあります。これは影響受けていますね。
Q:それは映画館でやっているのですか。
加瀬澤:やっていましたよ。ものすごく面白いです。あとは、エリック・ロメールの『緑の光線』。これも僕がすごく好きな作品で。参考にしました。ああいうなんかこう、ふわっとした空気感みたいなのがいいんですよね。
Q:では最後に、このインタビューを読んでくださった皆さんにメッセージを。
加瀬澤:ドキュメンタリーって、スクリーンの先に知らない世界が広がっていて、でもその世界は自分と地続きの場所にある世界の話であり、同時代にある話なんです。それと出会えることは、多分ものすごく刺激的な体験だと思うんですよね。劇場を出たときに、入る前と違った感情になっていたりとか、何かが芽生えていたりとか、そういう体験って、僕は面白いドキュメンタリーを見たときが多かったんです。今ある現実を見つめていることが、そういう体験をもたらしてくれていると思うので、それを楽しみにして劇場に足を運んでほしいですね。
監督:加瀬澤充
大学卒業後、園舎と園庭のない幼稚園のドキュメンタリー「あおぞら」を制作。2002年に制作会社ドキュメンタリージャパンに参加。「オンリーワン」(NHK BS-1)「森人」(BS日本テレビ)「疾走!神楽男子」(NHK BSプレミアム)など数々のドキュメンタリー番組を演出する。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
ドキュメンタリー映画『牧師といのちの崖』
ポレポレ東中野にて1月19日(土)~2月1日(金)までロードショー
12時30分~ / 21時~
それ以降の上映については劇場までお問い合わせください。
●イベント情報
20日(日)21時の上映後 藤藪庸一牧師 × 加瀬澤充監督トーク
21日(月)12時半の上映後 藤藪牧師および加瀬澤監督の舞台挨拶
24日(木)21時の上映後 映像ジャーナリスト 綿井健陽氏 × 加瀬澤充監督トーク
25日(金)21時の上映後 エッセイスト 末井昭氏 × 加瀬澤充監督トーク
26日(土)21時の上映後 文筆家・隣町珈琲店主 平川克美氏 × 加瀬澤充監督トーク
30日(水)21時の上映後 精神科医 春日武彦氏 × 加瀬澤充監督トーク
初日他、監督の舞台挨拶あり。
(C)ドキュメンタリージャパン、加瀬澤充