いつまでも溶けないキャンディのような映画
バートン版との違いはたくさんあるけれど、一番大きいのはワンカの人物造形やチャーリーとの関係だと思う。ジョニー・デップの演じた「ウォンカ」は、大人になりきれない子どものような男で、厳格な歯科医だった父親との関係にトラウマを抱えた人物だった。物語を通して、どちらかといえばチャーリーよりもウォンカが成長を促されているような印象だ。バートンならではのアレンジだと思う。
それに対し、『夢のチョコレート工場』でのジーン・ワイルダー扮するワンカは、デップ版同様の狂気があるにはあるんだけど、子どもたちをテストするなど、あくまで大人な態度を見せる。最終的にテストに合格したチャーリーを、ワンカは抱きしめるが、そこにはなにか父性のようなものさえ感じる。ここで、原作とは異なりチャーリーの父親が最初から不在だった理由がわかってくる。その役目はワンカにあったのだ。
ワンカとウォンカの違いのほかにも、工場で働くウンパルンパたちや登場するメカなど、『夢のチョコレート工場』と『チャーリーとチョコレート工場』との間にはいろいろな違いがあり、見比べるだけでも楽しい。両方観ると、両作が互いに良さを引き立て始める。『夢のチョコレート工場』の前提を知っていると、バートン版がどういうアレンジをしたのか、そのスケールアップの仕方がおもしろく思えるし、今回のぼくのように逆にあとから昔の方を観ると、バートン版のイメージの源流のようなものを見つけられ、よく知っていると思っていたお話の中に新しさを感じることができる。ふたつのチョコレート工場作品は、ワンカの発明した、いつまでなめても無くならないキャンディのように、いつまでも楽しみ、味わうことのできる最高のお菓子のような映画だ。
イラスト・文:川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。