自分にとって最も大事なテーマ
Q:話は変わりますが、今回は女性や少女に対する差別の描写が、あまりにもショッキングで、監督の怒りのようなものすら感じました。それは、やはりご自身の国を舞台にしているからなのでしょうか。
オスロ:それは、フランスだからということじゃないんです。私は製作に6年くらいかける人間なのですが、お腹のなかから生まれるような、自分にとって最も大事なテーマを扱うのでなければ6年間はもちません。今回は、おっしゃるような女性や少女を不当に扱う男たちの悪というのを描きたかったんです。それでリサーチのために関連する本なんかを読んだりすると、もう夜も寝られないほど残虐なんです。
そういうテーマありきで作品の舞台を考えるときに、以前から周囲に言われていたことを思い出したんです。「君はなぜ世界中の話を描いているのに、パリを扱わないんだ」と。そういう意見に抵抗する気持ちが今回はなくて、「そうだな、今回はこのテーマでパリを舞台にしよう」って思えたわけです。
なぜ時代をベル・エポックにしたのかというと、あの時代はまだ女性がロングドレスを着ていた最後の頃だったんですね。ああいう床すれすれのドレスを出すことで、観客に夢を見させることができるんです。ひどい現実があるなかで、そういう美しいものもあるということを見せたいと。
最初はそういう軽い感じで、深い意味はなかったのですが、あの時代には……パリの文化を作り上げた素晴らしい人たちがあんなにもいたんだってことにも気づいたのです!パリの文明を体現していたのがベル・エポックだったのだと思い至りました。
Q:本当に、たくさんのパリを代表する文化人が登場しました。そういう人たちによる文化や芸術の力が、邪悪な思想に対抗できると……。
オスロ:そう思います。そういう作品になったんです。幸いなことに、時代、時代で文明を代表する人たちがいたからこそ、いまの私たちの社会が、悪者たちが完全には勝手放題できないような仕組みができあがっていったのです。そういった、いまの私たちの財産を、本作で描いているのです。
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監督・脚本:ミッシェル・オスロ
1943年コート・ダジュール生まれ。ギニアで幼少時代、アンジェで青年期を過ごす。最初はアンジェの美術学校で、のちにフランス国立高等装飾美術学校で装飾芸術を学んだ。アニメーションは独学。プロとしての初の短編作品『3人の発明家たち』(1979)で BAFTA賞を受賞。以降自ら全ての作品のシナリオとイメージデザインを手がける。影絵を用いた『プリンス&プリンセス』など短編アニメーションやテレビアニメーションを多数制作し、セザール賞をはじめ多くの賞を受賞。また初の長編作品『キリクと魔女』では観客から支持され興行的成功も収めた。 1994年から2000年まで国際アニメーション協会の議長を務めた。2009年にはレジオン・ドヌール勲章をアニエス・ヴァルダ監督から授与され、2015年ザグレブ国際アニメーション映画祭で特別功労賞を受賞した。
取材・文: 小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。 Twitter: @kmovie
『ディリリとパリの時間旅行』
8月24日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
配給:チャイルド・フィルム
(c) 2018 NORD-OUEST FILMS – STUDIO O – ARTE FRANCE CINEMA – MARS FILMS – WILD BUNCH – MAC GUFF LIGNE – ARTEMIS PRODUCTIONS – SENATOR FILM PRODUKTION