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大好きなロン・コッブのデザインたち【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.49】

大好きなロン・コッブのデザインたち【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.49】

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素敵な宇宙標識セミオティック・スタンダード





 『エイリアン』(原案と脚本はダン・オバノン)での仕事は、コッブのキャリアにおいて代表的なものだ。H・R・ギーガーが悪夢的な生き物とその世界観を築いたのに対し、コッブはそれとは対照的な人類側の世界観、すなわち宇宙船ノストロモ号の外観や内装を手掛けている。ふたりは全く別々の世界を構築するということもあり、互いに影響を与えないように制作中は引き離されていたという。その結果、宇宙船とそこに侵入するエイリアンという見事なコントラストが実現することになった。


 そこで注目したいのはノストロモ号の内部で見られる正方形の標識だが、これもコッブがデザインしたもの。コッブのスケッチに添えられたテキストによれば「商用星間輸送および重元素輸送船のための標準記号(セミオティック・スタンダード)」(ご丁寧に「2078年4月26日」という日付までついている)とのことで、要するに宇宙船内部におけるピクトグラムである。スタイリッシュな記号は一見不思議な感じもするが、キャプションと図を見比べる「なるほど!」と合点がいくのだからよくできている。


 人型がまっすぐ立っていれば人工重力の作動を表し、逆さになって四肢を広げていれば人工重力なし、図の片側が真っ黒になっているのはエアロックや隔壁、黄色い背景の中で人型が倒れていれば放射能危険など、宇宙船っぽいものもあれば、コーヒーやコンピュータ、メディカル(これは普通に赤十字)など普通のものもある。ここにノストロモ号船内における生活感のようなものの要素のひとつが垣間見える気がする。


 その対象だけでなく、その背後にある考えや環境、つまりは設定を考えて作っているという印象だ。ただ宇宙船を描く、ということに留まらず、その宇宙船が存在する世界や、宇宙船の中での生活のことが意識されている。なにより、かっこいい宇宙船だけでなくこういったピクトグラムまでデザインできてしまうところがプロフェッショナルだと思う。


 いずれの標識も赤い枠がつき、さらにその外側を白い枠線が囲んでいるのだが(イラストでは白枠は省略した)、これは宇宙船の壁の色を問わず際立つようにという工夫らしい。記号で意味を伝えようとするだけでなくその視認性まで考えているとは。まさに宇宙船丸ごとデザインしたんだなあ。



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