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『ソフィア・コッポラの椿姫』ノーラン作品の常連、美術監督ネイサン・クロウリーが舞台にもたらした芸術性

Photo(c)Yasuko Kageyama

『ソフィア・コッポラの椿姫』ノーラン作品の常連、美術監督ネイサン・クロウリーが舞台にもたらした芸術性

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作品ごとに驚きの芸術性をもたらすクロウリー



 思い返すと、ソフィアの『マリー・アントワネット』がアカデミー賞で衣装デザイン賞のオスカーに輝いた’06年、ネイサン・クロウリーもまた『プレステージ』で美術賞にノミネートされ一躍注目を集める存在となった。その後も『ダークナイト』、『インターステラー』で同部門にノミネート。今や妥協なきプロダクション・デザイナーとしてハリウッドで知らないものがいないほどの傑出した人物と言える。


 ここ最近では、クリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』でもクロウリーに脚光が当たった。ノーランといえば、とことん実写の映像にこだわる人。『ダンケルク』でも早々に「ブルー・スクリーンを背景にした撮影はしない。どのシーンにも適切な位置に本物の海、本物の空、自然光のある状態で撮影したい」という構想をぶち上げ、スタッフはそんな彼のビジョンを具現化するにあたって大いに奔走した。


『ダンケルク』予告


 とりわけノーランとの付き合いの長いクロウリーは、実際の歴史的出来事が起きた場所での撮影を敢行すべく、荒れた海に面するところに’40年当時の防波堤を丸ごとそのまま再現。そこに大勢の兵士たちが我先に前に進もうと押し寄せる驚異的な密度のシークエンスを創出するのに貢献した。さらに大型船の停泊できない海に向けてトラックをつなげた桟橋を築いたり、他にも船舶や戦闘機内のリアリティを綿密に再現するなど、クリエイティブ・チームと共に様々な無謀な取り組みを繰り広げてきた。


 このような無理難題にすかさず適切な答えが出せるのも、彼が創造性あふれる感覚のみならず、建築に関する深い経験と知識を持ち合わせているから。さらには一切ジャンルに関わらず、歴史モノからSFまで自由にイマジネーションの羽根を際限なく広げることができ、どんな作品にでもクロウリーならではの重厚感をもたらすことが可能だ。


 そんなクロウリーと長年の友人関係にあったというソフィア・コッポラ。今回、ファッション・デザイナーのヴァレンティノ・ガラヴァーニから直々に指名を受けた彼女は、この初オペラという挑戦を共に受けて立つ仲間として「クロウリーならば舞台スペースを有意義に使った画期的なアイディアを創出してくれるはず」と確信し、自らの責任と判断で彼に打診することを決めたという。ちなみにクロウリーにとってもオペラの美術監督を務めるのは初めての体験である。


 結果から言って、ソフィアの判断は大いに正しかったとみていい。普段からオペラを十分に見慣れている人にとっても、本作はその冒頭シーンからかなりの肝入りの作品であることが瞬時に伝わり、大いに期待が高まるはず。さらに普段オペラなどあまり観ないという人でも、これまでクロウリーの手がけた映画作品の文脈、あるいはソフィアとの初コラボという意味合いにおいて極めて興味深い仕事ぶりを堪能できるはずだ。



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