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  4. 『デトロイト』脚本のきっかけは一人のミュージシャンの物語 ※注!ネタバレ含みます。
『デトロイト』脚本のきっかけは一人のミュージシャンの物語 ※注!ネタバレ含みます。

『デトロイト』脚本のきっかけは一人のミュージシャンの物語 ※注!ネタバレ含みます。


音楽レーベル“モータウン”と暴動の時代



 また『デトロイト』の劇中では使用されていないが、マーサ&ザ・ヴァンデラスの代表曲「Dancing in the Street」は、1967年の夏にデトロイトのみならず各地で頻発した黒人市民による暴動騒ぎのテーマソングのような存在になった。


 「Dancing in the Street」は、モータウンお抱えの作曲家だったウィリアム・スティーヴンソンが、デトロイトの住民が消火栓から飛び出す水で夏の暑さをしのいでいる姿を見て着想を得た(作詞作曲名義はマーヴィン・ゲイとアイヴィ・ジョー・ハンターと共同)。世界中の人々よ、今こそストリートに出て踊ろうと呼びかける詞に政治的な意図はなかったというが、積もり積もった鬱屈を発散したい黒人たちの想いを代弁する曲として、全米各地の活動家がデモをしながら同曲を流したという。


 イギリスの記者からの政治的な質問に対して、リーヴスは「ただのパーティーソングよ」と答えたが、享楽的で解放的な歌詞の内容と公民権運動が吹き荒れた時代背景を重ねると、確かに民衆の怒りを煽る強烈なメッセージが込められているように読める。まさに時代とシンクロした一曲だと言えるだろう。


 モータウンの豪腕社長ベリー・ゴーディーは、レーベルを立ち上げた当初はレコードジャケットから黒人アーティストだとわかる情報を排除していたが、ビートルズがモータウンの曲をカバーするなど人気と認知度が上がるにつれ、堂々と黒人アーティストであることを謳うようになった。社会性や政治性がセールスに響くことは嫌ったというが、人種差別撤廃を求める公民権運動には支持を表明し、マーティン・ルーサー・キングJr牧師の演説をレコードにしてリリースしたこともある。いわば“モータウン”は、音楽を通じて黒人と白人の分断を埋める大きな役割を果たしていたのだ。




 ゴーディーの自伝によると、デトロイト暴動の最中でも、モータウンの職員やミュージシャンたちは「家にいても安全じゃないから」と会社に集まって普段通りに仕事をしていたという。惨劇が起きた“アルジェ・モーテル”と“ヒッツヴィルUSA”と呼ばれていたモータウンの社屋兼スタジオはたった2キロしか離れていなかった。


しかし暴動の影響もあって、数年のうちにモータウンは地元デトロイトから西海岸のハリウッドに拠点を移すことになる。やがて自動車産業も衰退し、デトロイトが荒廃を極めた現代の姿は映画『ドント・ブリーズ』(2016)などでも描かれている通り。いずれにせよ、デトロイト暴動はモータウンとゴーディーが推し進めていた“白人マーケットにおける黒人音楽の成功”を阻みはしなかったが、モータウン自体がデトロイトを去る遠因となり、そしてラリー・リードという才能ある若いシンガーの人生を根底から変えてしまったのである。



文: 村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。



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提供:バップ、アスミック・エース、ロングライド 配給:ロングライド

© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 

公式サイト: www.longride.jp/detroit

2018年1月26日(金)、 TOHOシネマズ シャンテほか全国公開


※2018年1月記事掲載時の情報です。


※【お詫びと訂正】

本記事内に誤解を招きかねない内容がありましたので、以下2箇所を訂正致しました。


■1箇所目

人気音楽レーベル、モータウンに所属していたザ・ドラマティックスの結成メンバーだったリードは、

地元デトロイトのボーカルグループ、ザ・ドラマティックスの結成メンバーだったリードは、


■2箇所目

皮肉なことに、ザ・ドラマティックスも一時期所属していた“モータウン”は、地元デトロイトから急速に発展した音楽レーベルで、黒人アーティストを抱えながらも白人マーケットを意識して成功していた。 

マーク・ボールによると、ザ・ドラマティックスは一時期人気レーベル“モータウン”に所属していたという。皮肉なことに、モータウンは地元デトロイトから急速に発展した音楽レーベルで、黒人アーティストを抱えながらも白人マーケットを意識して成功していた。


皆様にお詫びするとともに、ここに訂正いたします。

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