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徹底再現という手段を用いて、史実を映画化する意味とは『デトロイト』

徹底再現という手段を用いて、史実を映画化する意味とは『デトロイト』

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大切なのは史実の再現ではなく、現代にも繋がる問題提起



 1967年に起きたデトロイト暴動と、その最中で起きた「アルジェ・モーテル事件」を描いた映画『デトロイト』。暴動が起きた背景には人種差別撤廃を訴える公民権運動が盛んになっていった世相があり、その反動のように差別意識が暴走して起きたのが、白人警官がまだ10代だった丸腰の黒人少年3人を殺害した「アルジェ・モーテル事件」だ。


 監督のキャスリン・ビグローは、もともとはエッジの効いたアクション映画を得意としていたが、近年は実話をベースにした社会派作品で高い評価を得ている。前線にいる兵士の心の闇に迫った『ハート・ロッカー』(2008)はアカデミー賞作品賞以下6部門を独占、ビグローも女性として史上初の監督賞に輝いた。


 ビグローの前作『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)もビン・ラディン殺害事件をもとにした実録物だったが、そんなアプローチをさらに推し進めたのが映画『デトロイト』の核と言える「アルジェ・モーテル事件」の再現シーン。40分間に及び尋問と拷問が展開する苛酷な内容で、極力実際に起きたことを正確に再現するべく、事件現場に居合わせた男女3人がコンサルタントを務めている。被害に遭った白人女性ジュリー・ハイセルは撮影現場に付きっきりで助言をしたというし、同じくコンサルタントを務めた元警備員のメルヴィン・ディスミュークスも「再現率は99.5%」と発言している。




 もっとも劇中でウィル・ポールターが熱演した人種差別主義者の警官クラウスは、現実の人物をもとに脚色された架空の人物で、後のシーンで描かれる裁判の経緯も必ずしも現実と同じではない。実際に事件に関わり、裁判にかけられた警官たちが無罪判決を受けているため、当人たちの許可なく実名で描くことはできないという事情もある。


 極論すれば、映画が史実を完全に再現することなどありえない。あくまでも、実話をベースに、当時の社会情勢や当事者たちのエモーションをドラマとして再構成したものでしかない。実録ものであっても思わぬディティールが脚色されていることも多い。劇中で警官が勢い余ってジュリーの服をはぎ取ってしまう場面があるが、実際にはジュリーだけでなく友人のカレンも裸にされ、警官たちから「Nigger Lovers(黒人好き)」となじられたという(なじられるシーンは劇中にもある)。


 ビグローとボールは、歴史的な研究記録を後世に残すために『デトロイト』を作ったのではない。むしろ、半世紀を経ても変わっていない現実を嘆き、アルジェ・モーテル事件を通じて理不尽な暴力や差別にさらされる極限状態をわれわれに伝えているのだ。重要なのは、再現の正確性よりも、作り手が物語や登場人物を通じて何を伝えようとしているかなのだということを忘れてはならない。



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