『デトロイト』あらすじ
1967年7月、暴動発生から3日目の夜、若い黒人客たちで賑わうアルジェ・モーテルに、銃声を聞いたとの通報を受けた大勢の警官と州兵が殺到した。そこで警官たちが、偶然モーテルに居合わせた若者へ暴力的な尋問を開始。やがて、それは異常な“死のゲーム”へと発展し、新たな惨劇を招き寄せていくのだった…。
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ひとりのシンガーの悲劇から壮大な歴史群像ドラマへ
『ハート・ロッカー』(2008)、『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)の脚本家マーク・ボールは、当初は『デトロイト』をミュージシャン/シンガーのラリー・リードの物語として構想していた。地元デトロイトのボーカルグループ、ザ・ドラマティックスの結成メンバーだったリードは、1967年に起きたデトロイト暴動に巻き込まれ、デトロイト市中の“アルジェ・モーテル”で起きた悲惨な事件に遭遇したことで、ポップスターへの輝かしい道を捨てた。
ところが完成した映画『デトロイト』は、アルジー・スミスが演じるラリー・リードを主要人物として登場させてはいるが、より広範な、5日間に及んだデトロイト暴動の全貌と、その後の裁判を含んだ群像ドラマになっている。
ボールの発言によると、ラリー・リード本人と対面として、リードが50年間ほとんど語ることがなかった“アルジェ・モーテル事件”についての話を聞き、他の当事者たちについてもリサーチを進めるうちに、一人の物語に絞ることはできないと腹をくくったのだと言う。ボールの過去作では現実の事件をベースにしつつ、物語を押し進める主人公を一人の人物に集約させていたが、『デトロイト』で初めて群像劇に挑戦した。結果『デトロイト』は膨大な歴史資料に匹敵する現実の重みと凄みを感じさせる作品に仕上がった。
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SF映画『ロボコップ』の暴動シーンのモデルにもなったデトロイト暴動は、43人の死者、1,189人の負傷者、そして7,200人の逮捕者を出したアメリカ史上最大規模の暴動事件とされている。警察による黒人地区の酒場の摘発に怒った民衆たちが暴徒と化し、略奪や焼き討ちが横行する無政府状態に陥ったのだ。
その最中で起きたのが“アルジェ・モーテル事件”だ。モーテルから発砲音を聞いたという警官隊が建物内に踏み込んだところ、そこには主に10代の黒人たちと白人の少女2名が泊まっており、差別意識の強い白人警官たちが彼らに尋問・拷問・虐待を加えながら取り調べを行って、武器を持たない黒人の少年3人を殺害したのである。
暴動の騒ぎから逃れようとたまたま“アルジェ・モーテル”に避難していたのが前述のラリー・リードだった。リードは事件に遭遇した他の2名とともに本作にコンサルタントとして参加。自分自身を演じたアルジー・スミスとともにテーマ曲「Grow」でデュエットを披露している。事件の後ザ・ドラマティックスを脱退し、被害者たちを追悼するようにひっそり聖歌隊で歌っていたリードにとって半世紀ぶりに公の場に現れた形となった。