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『グリーンブック』男二人の心の曲線を描き、あの『アラビアのロレンス』に重ねる

(c)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

『グリーンブック』男二人の心の曲線を描き、あの『アラビアのロレンス』に重ねる

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『グリーンブック』あらすじ

時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。


Index


※2019年2月記事掲載時の情報です。


育ちも性格も価値観も真逆の二人が心を通わす「定番」の成功例



 映画というものは、登場人物の「アーク」を描くことである。このアーク=Arcという言葉はフィルムメイカーにインタビューすると頻出する単語で、意味は「弧を描くような成長曲線」ということ。アーチ=Archと同義と言ってもいい。ひとつの作品の中で、人物が他者との関わりや目の前の運命を通して、内面を変化させていく。その変化を、映画を観る人たちにいかに共有させられるか。人間を描く映画、すなわち多くの映画に課せられるのが、このアークである。脚本では追求されたアークが、監督の演出や俳優の演技によってさらに別次元に導かれることもある。


 そのアークの大成功例と言ってもいい作品が『グリーンブック』だ。時は1962年。黒人ピアニストのドクター・ドナルド・シャーリーが、アメリカ南部のコンサートツアーに出る。ツアーの運転手として雇われたのが、イタリア系のトニー・リップだ。この二人、何から何までが「真逆」と言っていい。


 ドクターはNYカーネギーホール上階の高級マンションで暮らし、心理学や音楽などの博士号も持っているエリート。一方のトニーは、無学で荒っぽい性格で、ナイトクラブの用心棒として腕っぷしの強さを発揮する。しかも黒人に対して差別意識があるのだが、報酬のためにドクターの運転手を引き受けたのだ。人種も、性格も、生き方も、価値観も、すべてにおいてわかりやす過ぎるほど対照的な二人が、旅を通して心を通わせていく。その展開は、誰もが予想するとおりではある。



『グリーンブック』(c)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.


 こうした「真逆」の二人が旅を通して思わず絆を深めていく展開は、映画では「定番」であり、たとえばマッチョで女にモテモテのジョン・ヴォイトと、おどおどとしたホームレスのダスティン・ホフマンの『真夜中のカーボーイ』(69)、出所したばかりの神経質なジーン・ハックマンと、元船乗りで陽気なアル・パチーノの『スケアクロウ』(73)、自閉症の兄のダスティン・ホフマンと、その兄から遺産を横取りしようとする弟、トム・クルーズの『レインマン』(88)、余命宣告された2人が海を目指すドイツ映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』(97)など名作を次々と思い浮かべられる。



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