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『グリーンブック』男二人の心の曲線を描き、あの『アラビアのロレンス』に重ねる
深読みしたくなる、チラリと登場する名作との関係
こうした「アーク」の見事さで、重ね合わせたくなる名作がある。『グリーンブック』の背景になったのが、1962年。その年に公開された、『アラビアのロレンス』である。『グリーンブック』のあるシーンに、一瞬だけ映画館が登場するが、その外観に目を凝らすと上映されている作品が『アラビアのロレンス』であることがわかる。その年を代表する名作なので、これは必然かもしれない。
しかし深読みすれば『グリーンブック』と『アラビアのロレンス』には、いくつかの濃厚なつながりを発見できるだろう。『アラビアのロレンス』の主人公、T.E.ロレンスは第一次世界大戦中、将校として中東戦線でイギリス軍を率いた。劇中ではイギリス人のロレンスと、ハリト族の首長アリという、まさに文化も価値観も異なる男同士の心の交流がキーポイントとなる。ロレンスが地平線を見つめながら、アリが来るのを待つシーンなど、『グリーンブ ック』にも状況は違えど似た描写があった りと、その他にも「深読み」による共通点がいくつか発見可能だ。
そしてあまりに劇的なアークを描き、壮大なロマンという印象の『アラビアのロレンス』だが、じつは一人の男のささやかな物語でもあり、意外なほどサラリとした映画の幕切れがそれを象徴している。『グリーンブック』もまた然りで、同じような感覚がもたらされるのだ。
このような『ロレンス』との関係は、おそらく監督のピーター・ファレリーが意図したものではないだろう。しかしこうした深読みをすることこそ、映画好きの楽しみではないか。『アラビアのロレンス』が第35回アカデミー賞で作品賞ほか7部門受賞という快挙を成し遂げたように、『グリーンブック』も第91回アカデミー賞作品賞を見事に受賞した。作品の評価としても同じような「アーク」をたどったのである。
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
『グリーンブック』
2019年3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配給:ギャガ 公式サイト:https://gaga.ne.jp/greenbook/
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※2019年2月記事掲載時の情報です。