Index
- “砂漠の街の少年”の人生を決定付けた偉大な作品
- 今なお普遍性を持って訴えかけてくるロレンスの伝説
- 砂漠の真ん中でのテント生活で築かれた驚くべき結束力
- 暑さを生き抜き、ラクダを乗りこなしたキャストたち
- スコセッシやスピルバーグからの贈り物
“砂漠の街の少年”の人生を決定付けた偉大な作品
「この作品は、私に本気で監督になりたいと思わせた初めての映画だった。その頃、フェニックスに住んでいて、13か14歳くらい。本当に圧倒されたよ」(*1)
そう語るのはスティーブン・スピルバーグ。少年時代は親の仕事の都合で度重なる引越しを余儀なくされた彼だが、砂漠に接した街、アリゾナ州のフェニックスで本作『アラビアのロレンス』(62)と出会えたことは、彼にとって啓示的とさえ呼びたくなる瞬間だったはずだ。
映画の中でピーター・オトゥール演じる主人公ロレンスは、記者からの「あなたにとって砂漠とは?」との質問に「汚れのなさ」と答える。興味深いことにスティーブン少年が砂漠に対して抱いていたイメージもこれと全く同じだったという。
一般的なイメージからすると無慈悲で、容赦のない自然環境のように思える砂漠だが、より突き抜けた観点で見つめればその価値は鮮やかに反転する。ここで奇しくも心を重ね合わせた彼らの目には、常識のフィルターを超えたところにある「美しさ」や「雄大さ」、それにあらゆる痕跡を綺麗さっぱり洗い流してくれる「汚れのなさ」がより際立って映っていたのだろう。
かつてスピルバーグは、本作を「新たな映画の製作に入るたびに必ず観る作品のひとつ」として挙げていたこともある。巨匠の域に達した彼がその習慣を続けているかどうかは不明だが、彼が幾つになっても、様々な作品の中で変わらぬ少年のような「汚れのなさ」を発揮し続ける理由は、もしかするとこのようなところにあるのかもしれない。
*1)引用URL
https://www.nytimes.com/1988/12/15/movies/lawrence-of-arabia-the-way-it-should-be.html