企画/脚本段階からキャラクター造形に関わる俳優陣
ライアン・ゴズリング演じる主人公の男は、昼はハリウッドのカースタントマンで整備工。夜は強盗を逃す運転手。その役名もシンプルに“ドライバー”で、特定の名前は付けられていない。彼は孤独で寡黙。劇中でも台詞は極端に少ない。逃がし屋という裏稼業でも無駄のない動きで淡々と仕事をこなしていく。襲ってくる殺し屋や悪党に対しても一切の躊躇は無く、圧倒的な暴力で対峙し乗り越えていく。
ライアンは“ドライバー”のキャラクター造形に企画/脚本段階から関わった。口にくわえる楊枝から衣装、使用する車までライアンの意見が取り入れられている。“ドライバー”の名の通り自動車に関してのこだわりも強く、メカニックについても相当勉強し、映画で乗っている車は何とライアン自ら改造したとの事。また、寡黙な性格についても、ただ黙るのではなく、シーンごとに「会話」をする必要があるかどうかを常に監督と確認しながら撮影を進めた。“ドライバー”だったらこの場合はどうするのか?会話するのか?黙るのか?と、役と完全に同化したライアン自身が判断することも少なくなかったという。
『ドライヴ』©2011 Drive Film Holdings, LLC. All rights reserved
脇を固めたブライアン・クランストンやアルバート・ブルックス、オスカー・アイザックらも企画/脚本段階からキャラクター造形に携わった。ステレオタイプなチンピラ・ギャングではなく、人としての奥行きを表現することにより、シンプルなストーリーをより説得力のあるものにしている。
ちなみに、寡黙で孤独な流れ者、裏の世界で生きる男といえば、日本の任侠映画を思い出さざるをえない。まさに高倉健の世界だ。ライアン・ゴズリングも監督も言及はしていないが、寡黙で、その表情で語る“ドライバー”は、高倉健が演じてきたキャラクターにそっくりだ。実際に高倉健主演の映画『夜叉』(1985)と『ドライヴ』は人物相関図もよく似ている。裏のある寡黙な男は高倉健(ライアン・ゴズリング)、男の前に現れる女(母子)は田中裕子(キャリー・マリガン)、事件の発端となる女のヒモ(夫)はビートたけし(オスカー・アイザック)といった具合だ。
『ドライヴ』©2011 Drive Film Holdings, LLC. All rights reserved
もちろん両作品や俳優を一概に比較するつもりはないが、洋の東西を問わず魅力的なキャラクター造形やその相関は、少なからず共通点が出てくるものなのだろう。監督を始めとするスタッフが作り上げた映画の世界を支えるのはキャラクターであり、そのキャラクターを「感情」という表現手段を持って演じる俳優が、以下に重要かが改めてよく分かる。