© 押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』"格好悪い"が"カッコイイ"に反転する魔法。個性的な青春映画の傑作
2018.07.14
“14歳の輝き”を刻んだ南沙良と蒔田彩珠
本作の魅力は2人の若手女優に負うところも大きい。志乃役の南沙良は2002年6月生まれのモデル出身。浅野忠信、田中麗奈と共演した2017年の『 幼な子われらに生まれ』で女優デビューし、これが映画出演2作目となる。発話で苦労するシーンの演技では、取材と監修で当事者から協力を得たおかげもあり、不安、緊張、挫折、自己嫌悪が痛切に伝わってくる。感情を爆発させる2度の場面では、声を振り絞り顔をゆがめて、涙と鼻水を流したまま手やハンカチでぬぐうこともしない。モデルとしても活躍する十代半ばの女子が、カメラの前で鼻水を垂れ流すのは相当抵抗があっただろうと想像するが、監督は「ありのままの表情を出すのは、役者として綺麗なことだ」と伝えたという。監督の演出は的確で、渾身の演技で期待に応えた南もあっぱれというしかない。
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』© 押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
加代役の蒔田彩珠は2002年8月生まれで、7歳で子役デビュー。是枝裕和監督が2012年に手がけたテレビドラマ『
ゴーイング マイ ホーム』で注目され、以降は『
海よりもまだ深く』『
三度目の殺人』『
万引き家族』など是枝作品の常連となり、瀬々敬久監督の『
友罪』など話題作への出演が続く。ギター未経験だった蒔田は2カ月の猛特訓で吹替が不要なほど上達し、弾き語りのシーンでは歌の音程を外しながらも私たち観客の胸を打つという難易度の高いパフォーマンスをやってのけた。志乃と同様に、「しのかよ」の活動を通じて少しずつ変化する姿を目つきと表情で繊細に表現している。
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』© 押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
撮影が行われた2017年4月、南と蒔田は14歳。志乃と加代の年齢より1学年若いことになるが、どうみても高校生に見えない20代半ばや30前後の俳優を平気で青春学園映画に起用する邦画界にあって、ほぼキャラクターと同じ年代の女優を配し、なおかつ演技面でも妥協のない本作は貴重な存在と言える。この6月から7月にかけては公開に合わせ、イベントや取材で撮影された2人の写真を目にするが、撮影から1年とちょっとでずいぶん大人びてきた印象だ。間違いなく次代の邦画界を担う存在になるであろう若手女優2人の、伸び盛りの一瞬を収めた映像としての価値も大いに認められる。