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"格好悪い"が"カッコイイ"に反転する魔法。個性的な青春映画の傑作『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』

"格好悪い"が"カッコイイ"に反転する魔法。個性的な青春映画の傑作『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』


作り手たちが込めた思い



 原作は、映画『 スイートプールサイド』をはじめ、複数の作品が映像化されている押見修造の同名漫画。2012年に単行本化され、5年を経て12刷といまなお増刷が続く。押見は単行本のあとがきで、志乃の発話の描写で自身の経験を下敷きにしたことを明かす。その一方で、作中では具体的な障害や症状を指す言葉を使わず、「誰にでも当てはまる物語になればいいな、と思って描きました」としている。


 脚本を担当したのは、『 百円の恋』が日本アカデミー賞最優秀脚本賞など多くの賞を獲得した足立紳。プレス資料によると、足立の色が最も濃く出ているのは「菊地のキャラクター」とのこと。実際、菊地が自己紹介するシーンをはじめ、同級生相手にお調子者を演じてウザがられるエピソードの数々は原作にない要素だ。足立は2016年に脚本も書いた『 14の夜』で監督デビューを果たしているが、あの冴えない中学生4人組と、自虐的に童貞を白状する菊地のキャラは重なる部分がある。また、志乃と加代が夜の街を無言で歩くシークエンスも映画のオリジナルだが、これも『14の夜』の一場面を想起させる。




 監督の湯浅弘章にとっては、本作が初の長編商業映画。とはいえ、2007年に押井守総監修のオムニバス映画『 真・女立喰師列伝』の一編『草間のささやき 氷苺の玖実』で商業映画デビューを果たし、『 ワカコ酒』などのテレビドラマや、乃木坂46の音楽ビデオと、ショートムービーを数多く手がけており、プロの映像作家として10年以上のキャリアを誇る。


 湯浅監督が撮影監督の今村圭佑(『 おじいちゃん、死んじゃったって。』)と組んで生み出した映像は、被写界深度の浅いボケ味が効果的で、シーンによって志乃の緊張からくる視野狭窄の感覚や、青春の日々を追想するドリーミーな雰囲気をそれぞれ表現している。志乃と加代がバスの座席でパズルのピースのようにぴたりとはまって居眠りするショットや、海辺のボートの中で双子の胎児のように丸まって寄り添う姿を収めた俯瞰映像など、2人の関係性を象徴する映画独自の構図も秀逸だ。


 湯浅監督もまた、自主制作映画『まばたき』からオープニングの目覚まし時計や、バスが来ないバス停での長い滞在といったモチーフを転用している。脚本家にせよ監督にせよ、自らの過去作の要素を原作に加えた意図は、多様な体験や視点を添えることで一層大勢に当てはまる映画にする、つまり作品の普遍性を高めるということだったはずだし、その目論見は確かに達成されたといえるだろう。


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