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『アルゴ』フィクションの力を使って最高に面白い物語を紡ぎだした、映画監督ベン・アフレック

『アルゴ』フィクションの力を使って最高に面白い物語を紡ぎだした、映画監督ベン・アフレック

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伝統的な演出作法に則った、監督アフレックの作風



 クリス・テリオは脚本を書きながら、主人公となるトニー・メンデス役にジョージ・クルーニーを浮かべていたらしい。実際、クルーニーが監督と主演を兼ねている姿も容易に想像できる。しかし脚本を読んだアフレックが「ぜひこの映画を監督したい!」と名乗り出たことで、『アルゴ』はアフレックの三本目の監督作となった。


 数々のゴシップで低迷していたアフレックだが、監督デビュー作『 ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007)の時点からいぶし銀の演出力を発揮していた。続く監督第2作『 ザ・タウン』(2010)でも好評を博したアフレックにとって、『アルゴ』は監督としてステップアップする大きなチャンスだった。最初の2作は勝手知ったる地元ボストンで撮影した中小規模の犯罪映画だった。アメリカ東海岸からハリウッド、そして混沌とした1980年前後のイラン(撮影は主にイスタンブールで行われた)に跨る『アルゴ』は、スケール的にも大きな飛躍だった。




 アフレックの聡明さは、『アルゴ』を監督するにあたって、自分自身の持ち味を崩そうとしなかったこと。つまり伝統的な演出の作法に則り、物語を伝えるために必要な描写をひとつずつ丹念に積み重ねていったのだ。これみよがしに派手な見せ場を作るよりも、行間の俳優のちょっとした表情が多くを語る、非常に抑制の効いた演出が光っている。アフレック自身、決して時代の最先端とはいえない自身の作風について「シドニー・ルメットやアラン・J・パクラに影響された」と語っている。


 しかし『アルゴ』の面白さは、アフレックの地道でオーソドックスな演出によってより際立っている。序盤ではアメリカ大使館襲撃をまるでドキュメンタリーのように映し出し、ウソの映画をでっちあげる荒唐無稽な作戦には地に足の着いた演技と描写で説得力をもたらし、そして6人の大使館員を脱出させるクライマックスは、スリルに次ぐスリルのつるべ打ちで息つく暇もない。




 アフレックの演出プランが的確だったからこそ生まれた「誤解」については後述するが、『アルゴ』はあくまでも物語を最優先しながら、映画的な“リアリズム”と“ダイナミズム”をみごとに両立させていた。アカデミー作品賞を獲った反動もあって「標準的な娯楽映画でしかない」といった評も見受けられたが、作品自体が「手に汗握る脱出スリラー」を志向しているのだから、これは悪評どころか誉め言葉だと言っていい。アフレックは、当時の複雑な政治情勢や時代の空気を損なうことなしに、やたらと面白い娯楽映画に仕上げるという離れ業をやってのけたのだ。


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