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『アルゴ』フィクションの力を使って最高に面白い物語を紡ぎだした、映画監督ベン・アフレック

『アルゴ』フィクションの力を使って最高に面白い物語を紡ぎだした、映画監督ベン・アフレック

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「映画」という武器を最大限に活かしたアプローチ



 アフレックは『アルゴ』のソフトリリース時のインタビューで、クリス・テリオの脚本がいかに秀逸であったかを語っている。アフレック自身は、事件に関するドキュメンタリーを観たり記事を読んだりして、10時間のドラマシリーズには向いていても、2時間に収まる映画にするには扱いづらい素材だと考えていた。ところがテリオの脚本が、みごとに映画の三幕構成に収まっていることに驚嘆したという。


 アフレックはクリス・テリオの脚本を得て初めて、書道の達人の一筆書きのように、力強く、脇目も振らずに物語が進んでいく『アルゴ』を造り上げることができた。またテリオの脚本は、映画監督アフレックの無駄のない骨太な演出との親和性が驚くほどに高かった。




 ただし、『アルゴ』が非常に完成度の高い娯楽作品に仕上がったことで、実話の映画化に付きまとう大きな「誤解」を招くことになった。「映画で目撃した迫真の展開は、すべて本当にあったこと」という誤解が生まれ、また、史実と違う点が指摘されて、是非について論争が生まれたのだ。


 そもそも脚色されていないノンフィクション映画など存在しないに等しい。『アルゴ』にも実際の事件から大きく脚色された点は数多くあるが、劇中の説明と違って、イギリスやニュージーランドの大使館は6人の救出には協力的だったし、クライマックスの手に汗握る逃亡劇にいたってはほぼ完全にフィクションである。


 そもそもが『アルゴ』の実話自体、相当に突拍子がない。アメリカ人に対して厳戒態勢が敷かれているイランから、いかに無事に6人を脱出させるか? 普通ならできるだけ目立たない手を考えるところを、ハリウッドから来た映画人に仕立て上げ、アメリカではニセの記者発表までしたのである。一筋縄ではいかない緊急事態だからこそ、CIAは正攻法とは真逆の手を選んだのだ。




 『アルゴ』では、大前提である実話が「普通ならあり得ないこと」なので、観客もおのずと「何が起きてもおかしくない」と信じてしまう。しかも冒頭に挿入されるアメリカ大使館占拠の様子を映し出したフッテージ映像(実際にはこの映画のために撮影されたもの)によって、観客は異常な緊張の中に放り込まれる。アフレックとテリオのみごとさは、映画を極力リアルに見せることで、スリラー映画としてギリギリのところまで跳躍する自由を手にしたことだろう。


 劇中、イランに潜入したトニー・メンデスと6人の大使館員は何度も危機一髪の窮地を切り抜ける。筆者は、その展開があまりにも出来過ぎているにも関わらず、有無を言わさない勢いと映画的な説得力が備わっていることに感動する。『アルゴ』は、命の危険にさらされた6人を救うために、「映画」という絵空事=フィクションが思わぬ力を発揮したノンフィクションなのだ。それを映画にする以上、「映画」という武器を最大限に活かした本作のアプローチは、圧倒的に正しかったのではないだろうか。



 もしも仮に可能な限り実話に忠実に撮っていたら、エキサイティングな盛り上がりはどこにも存在せず、平坦な会話劇になっていただろう。しかし映画にする以上、フィクションの力を使って最高に面白い物語を紡ぎだす。『アルゴ』の実話はそんなポテンシャルを秘めていたし、アフレックとテリオによって最良の形で映画になったのだと思っている。


参考書籍:

アルゴ』アントニオ・メンデス、マット・バグリオ著 早川書房刊


参考URL:

https://www.indiatimes.com/entertainment/hollywood/interview-ben-affleck-talks-about-argo-74997.html

https://www.newyorker.com/magazine/2012/10/15/film-within-a-film



文:村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。



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『アルゴ』

ブルーレイ<エクステンデッド・バージョン> ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

©2012 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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