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舞台裏が面白すぎる、ウソみたいなホントの救出劇
第85回アカデミー賞で作品賞・脚色賞・編集賞に輝いた『アルゴ』。映画スターとして低迷していたベン・アフレックが、映画監督としての評価を確立させた作品である。また自ら主演も兼ねたことで、アフレックが俳優として再浮上するきっかけにもなった。
一方で『アルゴ』は、「実話を映画化する」という行為がどういうものなのかを改めて教えてくれる映画でもある。まずはごく簡単に、この映画のベースになっている「イランアメリカ大使館人質事件」についておさらいをしておきたい。
1979年にイランではイスラム革命が起こり、親米的だった皇帝パフラヴィー2世(パーレビ国王とも)が国外に逃亡。しかしアメリカ政府がパフラヴィー2世の受け入れを認めたことに激怒したイラン国民が元国王の引き渡しを求めてアメリカ大使館を占拠。大使館職員ら52名が人質として拘束されたのだ。
『アルゴ』はこの事件の裏で、かろうじて大使館から脱出した6人のアメリカ人の救出作戦を描いている。当時者は真剣そのものだったが、この時にCIAが立案した計画が面白すぎた。カナダ大使の私邸に匿われていた6人をイランから出国させるために、「アルゴ」という架空のSF大作映画をでっちあげ、6人をイランでロケハン中の制作スタッフに化けさせたのだ。
作戦を成功させるためには、決して映画自体がウソだとバレてはいけない。そこでCIAは映画「アルゴ」の一面広告を出し、ハリウッドに「スタジオ・シックス」という制作事務所まで設置。真に受けた映画人たちは「スタジオ・シックス」にいくつもの企画を持ち込み、スティーヴン・スピルバーグすら脚本を送ってきたという。まさにハリウッドを巻き込んでの一大救出作戦が繰り広げられたのである。
「これは映画になる!」と誰もが思うような実話だが、当時CIAの関与は極秘にされたため長らく世間に知られることはなかった。しかし後に情報解禁され、WIRED誌に掲載された記事を読んだ脚本家のクリス・テリオがシナリオ化。ジョージ・クルーニーのスモークハウス・プロダクションが映画化権を手に入れた。政治や国際舞台の裏側を扱うことに定評のあるクルーニーがいかにも好みそうな題材である。