1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. エル ELLE
  4. 『エル ELLE』ユペール!ユペール!ユペール!イザベル・ユペールに呑み込まれる131分
『エル ELLE』ユペール!ユペール!ユペール!イザベル・ユペールに呑み込まれる131分

(c) 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

『エル ELLE』ユペール!ユペール!ユペール!イザベル・ユペールに呑み込まれる131分

PAGES


『エル ELLE』の企画を救ったユペールの女優魂



 ヴァーホーヴェンは当初『エル ELLE』をハリウッドで撮ろうとしていた、というのは有名な話で、ニコール・キッドマンが第一候補だった。ところがハリウッドの“Aリスト”にいる女優たちから軒並み断られ、唯一ジェニファー・ジェイソン・リーだけがやる気を見せたが、製作サイドがこの企画にはスターが必要だと考えたことから流れてしまったという。


 そして頓挫するかに思えた企画を救ったのがフランスが誇るイザベル・ユペールだった。ユペールはセザール賞に最多ノミネート記録を持つ、言うなれば“フランス映画界のメリル・ストリープ”とでも呼ぶべき超大物スター女優。そして、タブーを恐れない作品選びでも知られている。 数ある彼女の代表作でも広く知られているは、カンヌ国際映画祭で女優賞に輝いた『ピアニスト』(2001)だろう。監督のミヒャエル・ハネケはヴァーホーヴェンに負けず劣らず世間を攪乱するような衝撃作を作る鬼才で、ユペールが演じたのは性的抑圧をこじらせてマゾヒズム嗜好を暴走させる中年女性役。これまた観客の共感を拒絶するような硬質な名演技で世界中の度肝を抜いた。


 また、ユペールがベネチア国際映画祭の女優賞を受賞した『主婦マリーがしたこと』(1988)は、第二次大戦中のフランスで生活のために堕胎を請け負った主婦の実話の映画化で、倫理的にも厄介で面倒な役どころ。『ジョルジュ・バタイユ ママン』(2004)では息子に性の手ほどきをする実母役、『ヴィオレッタ』(2011)では幼い娘のヌード写真で名声を得ようとする写真家の母親役である。もちろんノーマルな名作もあるが、誰もが二の足を踏むような企画に自ら飛び込んでいくのがユペールの一貫した姿勢なのである。


 『エル ELLE』はもともとがフランス人作家フィリップ・ディジャンが原作なのでフランス映画として製作されたのは当然のように思えるのだが、ユペールが「この役をやりたい!」と名乗りを上げたことでようやく実現にこぎつけた企画でもあるのだ。そしてユペールの凄さはただ役に対して貪欲なだけではない。「これだ!」と思う企画や人材と仕事ができるとなれば、国も予算もまったく関係なくどこにでも飛んで行くバイタリティの持ち主なのだ。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. エル ELLE
  4. 『エル ELLE』ユペール!ユペール!ユペール!イザベル・ユペールに呑み込まれる131分