1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. エル ELLE
  4. 『エル ELLE』原作者フィリップ・ジャンが生み出す強烈な女性像に、ヴァーホーヴェンとユペールはどうアプローチしたのか?
『エル ELLE』原作者フィリップ・ジャンが生み出す強烈な女性像に、ヴァーホーヴェンとユペールはどうアプローチしたのか?

(c) 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

『エル ELLE』原作者フィリップ・ジャンが生み出す強烈な女性像に、ヴァーホーヴェンとユペールはどうアプローチしたのか?

PAGES


『エル ELLE』あらすじ

新鋭ゲーム会社の社長を務めるミシェル(イザベル・ユペール)は、猫とふたりで暮らす瀟洒な自宅で覆面の男に襲われる。だが、ミシェルは警察にも通報せず、いつもと変わらぬ様子で、訪ねてきた息子のヴァンサン(ジョナ・ブロケ)を迎える。半年前まで定職にも就かず遊んでいた息子だが、恋人のジョジー(アリス・イザーズ)の妊娠をきっかけに、ファストフード店で働き始めた。しかし、そのジョジーは息子以上に常識はずれで、ミシェルは彼女の目的は自分の豊かな財産なのではないかと疑っていた。  翌朝、やはりいつもと変りなく出社したミシェルは、共同経営者で親友のアンナ(アンヌ・コンシニ)と、新作ゲームのプレビューに参加する。容赦なくダメ出しをするミシェルに、ゲームデザイナーのキュルトは激しく反発するが、自他ともに認めるワンマン社長のミシェルは耳を貸そうともしない。 


高級アパルトマンに暮らす母親(ジュディット・マーレ)に、生活費の小切手を届けに行ったミシェルは、母親の若い恋人と鉢合わせしてしまう。明らかに金銭目当ての男に、露骨にトゲトゲしい態度をとるミシェルは、母親に「私が再婚したら?」と訊ねられて、「母さんを殺す」と即答するのだった。 帰宅すると、まるで見張っていたかのようなタイミングで、送信者不明のメールが届く。さらに会社で残業中に、その時着ているブラウスの色を言い当てたメールを受け取る。どうやら犯人は、思いのほか近くにいるらしい。 ミシェルは、一人一人に疑惑の目を向けていく。まずは、会社の部下たち。彼女が目をかけているケヴィン以外は、全員が社長を「恨んでいる」とアンナからも指摘されていた。そして、元夫でヴァンサンの父親、売れない小説家のリシャール(シャルル・ベルリング)。今でも友人付き合いを続けてはいるが、ゲームの企画を持ち込んでミシェルに断られたことを逆恨みしているかもしれない。逆恨みと言えば、母親の恋人だって疑わしい。  また、向かいの家の主人パトリック(ロラン・ラフィット)とは日常的に挨拶を交わす仲だが、妙にセクシーな視線で見つめられている気がする。さらに、ミシェルには秘密の恋人がいるのだが、彼の妻にバレて非常事態になっていないとも限らない。  そうこうするうちに、相手は大胆な行動をとり始める。


女性が襲われるゲーム映像にミシェルの顔写真を貼りつけた動画を、ミシェルの会社のすべてのパソコンに送りつけてきたのだ。 そんな中、ミシェルの周囲に新たな不穏な空気が漂い始める。39年前、衝撃的な犯罪で終身刑となったミシェルの父親が仮釈放の申請をしたために、忘れられていた事件が再び掘り起こされ始めたのだ。当時、10歳だったミシェルも事件に関わっているのではないかと噂されたが、結局真実は迷宮入りとなった。その時の体験から2度と警察に関わりたくないミシェルは、自ら犯人を探し始める。だが、次第に明かされていくのは、事件の真相よりも恐ろしい彼女の本性だった──。


Index


    原作者はフランス文壇を震撼させた『ベティ・ブルー』の鬼才



     鬼才ポール・ヴァーホーヴェンとフランスの大女優イザベル・ユペールが、世の常識人を逆なでする無頼なヒロイン像を打ち出した問題作『エル ELLE』。原作小説『Oh…』を書いたのはフランスの作家フィリップ・ジャン。ジャン=ジャック・ベネックス監督の名作『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(1986)の原作者としても知られ、日本では長らくフィリップ・ディジャンと呼ばれてきた。


     「ディジャン」は誤記であり本来のフランス語の発音は「ジャン(Djan)」。マシュー・マコノヒーが実際には「マコノヘイ」と発音するのに、日本ではもう後戻りができなくなった現象に似ている。ちなみに歌手のビリー・ジョエルの発音は「ビリー・ジョール」だし、キウェテル・イジョフォーは「チュウィテル・イジョアフォー」が近い。ユマ・サーマンは「ウマ・サーマン」が正解で、これは「馬」では美人女優ぽくないからと敢えて「ユマ」と表記したのが由来だと聞くが真偽のほどはわからない。フィリップ・ジャンに関してはハヤカワ文庫が『Oh…』の邦訳(邦題『エル ELLE』)を出版した際に「ジャン」表記に改められている。


     映画『エル ELLE』はフィリップ・ジャンの原作にかなり忠実に作られている。つまり観客の理解と共感を拒絶するような主人公ミシェルは、フィリップ・ジャンの頭の中で生み出された。レイプ被害に遭いながらもいつもと同じ日常を手放さず、性的な探求心を失わない50代女性。いったいどんな人間が思いついたのかと好奇心が湧くが、『ベティ・ブルー』の生みの親だと思えば合点がいく。まずは80年代に強烈かつ魅惑的な“病んだヒロイン”像を打ち出した『ベティ・ブルー』の話をしたい。



    PAGES

    この記事をシェア

    メールマガジン登録
    counter
    1. CINEMORE(シネモア)
    2. 映画
    3. エル ELLE
    4. 『エル ELLE』原作者フィリップ・ジャンが生み出す強烈な女性像に、ヴァーホーヴェンとユペールはどうアプローチしたのか?