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『エル ELLE』原作者フィリップ・ジャンが生み出す強烈な女性像に、ヴァーホーヴェンとユペールはどうアプローチしたのか?
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原作者はフランス文壇を震撼させた『ベティ・ブルー』の鬼才
鬼才ポール・ヴァーホーヴェンとフランスの大女優イザベル・ユペールが、世の常識人を逆なでする無頼なヒロイン像を打ち出した問題作『エル ELLE』。原作小説『Oh…』を書いたのはフランスの作家フィリップ・ジャン。ジャン=ジャック・ベネックス監督の名作『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(1986)の原作者としても知られ、日本では長らくフィリップ・ディジャンと呼ばれてきた。
「ディジャン」は誤記であり本来のフランス語の発音は「ジャン(Djan)」。マシュー・マコノヒーが実際には「マコノヘイ」と発音するのに、日本ではもう後戻りができなくなった現象に似ている。ちなみに歌手のビリー・ジョエルの発音は「ビリー・ジョール」だし、キウェテル・イジョフォーは「チュウィテル・イジョアフォー」が近い。ユマ・サーマンは「ウマ・サーマン」が正解で、これは「馬」では美人女優ぽくないからと敢えて「ユマ」と表記したのが由来だと聞くが真偽のほどはわからない。フィリップ・ジャンに関してはハヤカワ文庫が『Oh…』の邦訳(邦題『エル ELLE』)を出版した際に「ジャン」表記に改められている。
映画『エル ELLE』はフィリップ・ジャンの原作にかなり忠実に作られている。つまり観客の理解と共感を拒絶するような主人公ミシェルは、フィリップ・ジャンの頭の中で生み出された。レイプ被害に遭いながらもいつもと同じ日常を手放さず、性的な探求心を失わない50代女性。いったいどんな人間が思いついたのかと好奇心が湧くが、『ベティ・ブルー』の生みの親だと思えば合点がいく。まずは80年代に強烈かつ魅惑的な“病んだヒロイン”像を打ち出した『ベティ・ブルー』の話をしたい。