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ユペール!ユペール!ユペール!イザベル・ユペールに呑み込まれる131分『エル ELLE』

ユペール!ユペール!ユペール!イザベル・ユペールに呑み込まれる131分『エル ELLE』

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    映画史上最も“共感できないヒロイン”の魅力



     常に挑発的な問題作を撮り続けてきた映画監督ポール・ヴァーホーヴェンが、フランスで最も果敢な大女優イザベル・ユペールと組んだ『エル ELLE』。自宅で侵入者にレイプされたヒロインが、およそ誰にも予想がつかない行動をとり続ける摩訶不思議なサスペンスであり、ヴァーホーヴェンの作品のほとんどがそうであるようにブラックコメディの側面を持つ。フランスのセザール賞の作品賞、主演女優賞を筆頭に数多くの映画賞を受賞している一方で、果たして不謹慎か否かで物議を醸している筋金入りの大問題作だ。


     本作における観客の好悪を一番左右するのは「主人公であるミシェルの人物像」にある。ミシェルはレイプ被害に遭った後も、決して警察に届けようとせず、それまでと変わらない日常を過ごす。自分が経営しているエロゲーム会社の指揮を執り、不甲斐ない中年息子の世話を焼き、面倒くさい母親の面倒を見て、複数の男性と性的関係を持つ。そして友人たちとのディナーの席で「私、レイプされたみたい」と茶飲み話のように持ち出すのだ。


     もちろんレイプの恐怖は彼女にも取り憑いていて、それがさらに取っ散らかった展開へと繋がっていくのだが、基本的にヴァーホーヴェンもユペールも、ミシェルという人物が「共感を呼ぶ」とは欠片も考えておらず、むしろ「まったく共感できない人物」にどこまで真実味を宿らせるかに意義を感じていた節がある。行動原理が理解できない人物を延々と見続けることをエキサイティングだと感じるか、不快に思うのかはもう観客ひとりひとりの問題だと言うほかない。


     この映画史上でも稀有なほど複雑にねじくれたヒロインを“わかった”つもりになることはできないが、ただ一貫しているのは、既存の価値観や大衆心理に対して、徹底的にアンチを貫いていること。ミシェルはレイプに遭ったからといって世間から被害者扱いされるつもりはなく、自分の奔放すぎる性癖にストッパーをかけるつもりもない。女性なら誰もが持っている母性愛すら否定してみせる。時に誰かを傷つけることがあることもわかっているが、それもまた人生の一部だと腹を括っているのだ。


     お手軽な倫理観などちゃんちゃら可笑しいとでも言いたげな究極の無頼であるミシェル。まったくタイプは違うが、筆者は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)でダニエル・デイ=ルイスが演じた石油王ダニエル・プレインビューを想起した。プレインビューもまたアンチヒーロー的な悪漢だが、世の中の偽善を嫌うが故に誰にも理解されない道を突き進むのだ。



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