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作家と妻の話の形を借りて、現代社会を告発する『天才作家の妻 -40年目の真実-』

作家と妻の話の形を借りて、現代社会を告発する『天才作家の妻 -40年目の真実-』


彼女を怒らせた夫の“優しさ”



 ジョーンは墓場まで、この秘密を守り抜こうとしていた。……しかし、しかしである。授賞式が近づくにつれ雲行きが怪しくなりだすのが、本作のすごいところだ。


 名優ジョナサン・プライスが演じるジョゼフは、式典で当然のように受賞者として振る舞ったり、いい気になってストックホルムでの旅行を楽しんでいる。それがジョーンには面白くない。たしかに、いままでのように嘘をつき続けなければならないことは、理屈では分かっている。だが、なぜか彼女は怒りが制御できなくなっていくのである。


 怒りが爆発するトリガーとなったのは、意外にも夫から自分に対しての“気遣い”だった。ジョゼフは授賞式のなかで、何としても彼女に感謝の念を伝えようとしていた。「女房がいなければ授賞はあり得なかったのだ」、と……。しかし、その優しさを見せたことが結果的に、ジョゼフにとって文字通りの“命取り”になってしまうことになる。




 このあたりのジョーンの複数の感情が絡み合う複雑な心理は、じつに興味深い。ここで脚本の意図がよく分かるのは、原作では授賞するのは別の文学賞だったが、今回の脚色によって「ノーベル賞」に設定が変更されている点である。ノーベル賞といえば、世界中の多くの作家が憧れる、最高のなかの最高の栄誉である。それを、この程度の誠意と引き換えに、気持ち良く譲ることができるのか。これがまず一つめの感情であろう。


 そして、そんなことで義理を返したと思うことができる夫の身勝手さ、鈍感さに腹が立つという感情もある。優しさを見せるのなら、真実を告白する以外にはあり得ない。世界最高の名誉を奪っておいて、中途半端な気遣いを見せることでなあなあにしようという態度が、逆に彼女には我慢ならない裏切りだと感じたのだろう。それは、従業員を馬車馬のように働かせて、一人だけ大儲けしている雇用者が、「感謝している」と述べる白々しさにも近い。ここでは、ジョーンの身体から発せられる凍てつくような夫への憎しみが、まるで目に見えるような錯覚を感じてしまう。グレン・クローズの、まさに畢生の演技だ。



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